〝荒事専門〟
「こいつはすごい……」
――…フレームは、銃身および弾倉のある上部と、撃鉄と引き金の機構、それにグリップのある下部とに分割されている。
それが発砲の反動を利用して自動的にコッキングするための構造だろうことは、ほぼ同じ動作機構を持つシングルアクション・リボルバー――ウィーズリー=ターナー工房製セルフコッキング・オートマチック・リボルバー…――を使うオレリーの専属機械士のようなエミールには自明だった。シングルアクションのトリガー動作はハンマーを撃発させるだけ。ストロークが短くて軽くなる利点のため、手ブレが小さく精密射撃に向いている。
見れば見るほど惹き込まれる。まるで工芸品のようだ。組み上げの精度が尋常じゃない。
解せないのは、傷の見当たらないフレームには、シリアルはおろか工房の刻印ひとつ入っていないことだ。ジップ・ガンとは到底思えない造りだが……。
「これは……銘も刻印も見当たらないけど?」
訊くべきかどうか迷ったものの、けっきょく訊いてしまったエミールに、マルレーンは屈託なく応じた。
「ごめんなさい。いつ、どこで造られたか……型番もわからないの」
「こんな見事な造りの銃なのに? じゃ、〝名称〟すらわからないのか……」
心底から残念だ、というふうになったエミールに、
「〝レーリチ〟よ」 マルレーンは応えた。
「元の持ち主の名前……それだけはわかってるの。だから――」
言葉を切って頷いてみせる。……どうやら〝曰く付き〟らしい。
「君らも、荒事専門の〝流れ〟なのかい?」
話題が深いところに落ち込んでいってしまう前に、ドクが横合いから話題を変えた。
〝荒事専門〟の言い様に、エミールが返事に窮してオレリーを向く。視線を交わした後に、彼女が応えた。
「そんなつもりもないですけど……。フロンティアには、道理なんてないって人間も多いですから――」
言葉尻を拾うようにドクが訊く。
「――〝降り懸る火の粉〟を払うのはやぶさかじゃない?」
〝ええ〟とオレリーは肯いて返した。
「なるほど」 ドクはくぃとグラスを呷った。「それであの腕前か……一応、納得することにしたよ」
「おふたりは〝荒事専門〟なんですか?」
逆にそう訊き返したのは、一通り見回して満足したらしく〝レーリチ〟を現在の持ち主の手に戻したエミールだった。
「まあ、そうだね。……僕らはバウンティハンターだから」
エミールはオレリーと目を見合わせた。医者が本業だと彼の口から聞いてまだ然程時間は経っていなかったが、当人にとっては医業と賞金稼ぎ、この二つの職業は両立できるものらしい。
「……ここでも〝荒事〟を?」
エミールは、探るような声にはならないように、さり気なく訊く。
「まだ〝そういう話〟にはなっていない」
ドクも同じように、さり気なく、という感じに応じた。
それから、にっこりと笑顔になって、どこまで本気かはわからなかったが、満更でもないように聞こえる声で言ったのだった。
「でも、そうなったときには、ぜひ一緒にやりたいね。すごく楽ができそうだ」
と――。