皿の上の大砂トカゲ
とりあえず食の進まぬオレリーを除く三人によって、皿の上の大砂トカゲはみるみるうちに解体されていった。マルレーンも、男ふたりに負けまいと、絶妙な焼き加減の肉に齧り付いて健啖家ぶりを発揮したのだった。
「それで、〝ドクター〟・アッチェカーロ…――」
メインディッシュがほぼほぼ空になるのを見計らって、オレリーは男の〝流れ〟の方に話しかけた。珍しい響きの連なる彼の名に、発音の方が少々怪しくなる。
「――アチェカルロ……」 さり気なく訂正された。「〝ドクター〟は何だか堅苦しいな……。僕のことは〝ドク〟と」
そう言って微笑みかけてくれた三十男は、バウンティーハンターが生業の〝流れ〟には到底思えず、やはり〝ドクター〟の方が相応しいのではとオレリーには感じられた。が、本人の願いに従うことにする。
「それじゃ〝ドク〟…――おふたりはいま、何か〝依頼事〟を?」
一足先に町に着いていた二人は、もう何かロータリから〝依頼事〟を斡旋されたのだろうか。そんなことが〝渡り〟である彼らにとって、当り障りのない話題といえた。
「ええ。とりあえず〝野良仕事〟を幾つか」
「野良仕事……?」 と小首を傾げるオレリー。
「そ。町外れには何件か農場があってね。冬支度前の秋だし、仕事はいろいろと……。じつは昨日も、コラルで飼葉の荷下ろしをしていて、それで君のボトルトスを観たんだよ――…〝6本のボトルに乾杯〟」
ドクは齧っていた大砂トカゲの肉片を小皿に置き、ワイングラスを掲げてみせた。
「……でも〝ドク〟は、ほとんど何もしてくれてないんですけどね」
横合いから、肉片を頬張っていたマルレーンが割り込んだ。ドクは苦笑いとなる。
それからドクは、空になったグラスにワインを注ぎ、オレリーにも〝注ごうか?〟と目で訊いた。オレリーは小さく手を振って断った。
と、彼女は、エミールが先ほどからマルレーンの顔をチラチラと窺って、何か切り出そうとしていることに気付いた。それでバツの悪い表情になって、コホンと咳払いをする。
それを耳で拾ったエミールは、慌てて首をまわして、何とも言えない表情を返した。
マルレーンは、そんなエミールとオレリーにくすりと笑って、ナプキンに手を伸ばすと丁寧に手を拭い、徐に腰のホルスターに手を遣った。
「――…〝渡り〟のお兄さんが気になるのは、コレでしょ?」
得物を抜き出すと銃把を向けてエミールへと差し出す。エミールの視線が銃へと移動するのを確認して、
「安全装置は掛かってますよ。どうぞー」
と、笑顔で言った。
ブルースチールの深い光沢を放つ6連発リボルバーは、それまで見てきたどの銃よりも洗練されモダンな造形をしていた。それに、溜息が出るほど美しい。
短めの3インチ銃身は、一般的なリボルバーよりも〝下側〟にある。
多分、発砲時の跳ね上がりを抑えるため、通常のリボルバーとは弾倉に対する銃身の位置を逆の――弾丸は一番下の薬室から発射される――構造にしたのだ。銃把と銃身の高低差を減少させることで手の位置と銃身の位置を極力一致させようというのだろう…――。