「驚いたな……」
少女の神懸かった技の冴えは、町外れに集まった見物人を静まり返らせた。まさかもう地面というところまで待ってから、6本もの瓶を一瞬で(……当に〝一瞬〟で)撃ち抜くとは……。
髭面男と取り巻き二人ももちろん言葉など失せ、少女とその連れとコミッショナー、それから保安官とに引き攣った顔を向けると、両手を上げて――降参の意だ…――その場を立ち去った。去り際、帽子の鍔に手を遣ったのは、いっそ殊勝だったかも知れない。
そんな彼らに、保安官は小さく舌打ちをしたようだった。
さて、少女の方は、ハンマーを下ろした銃をホルスターに戻して、興奮しつつも立ち尽くすばかりの見物人たちを前に、コミッショナーを向いた。
愛想があるとは言い難いすみれ色の瞳に見上げられ、グレンは頷いて、周囲の見物人らの耳にも届くような声量で口を開いた。
「では、以上で『聴取』を終えるとします。オレリー……ああ、(そう呼んで…――)」
と、儀礼的に〝呼び掛け方〟を確認したグレンを遮るようにオレリーは答えた。
「――わたしのことは〝ミス〟・ラングランと」
そうして小さく頷いてみせた彼女の周りには、確かに〝育ちの良さ〟(それは〝渡り〟には似つかわしくはないものだ)が漂っている。
「ああ……」(――コイツは〝大物〟だ)
グレンは笑顔を作って頷いて返すと、さらに丁寧な言い方になって、彼女と連れとに言い直したのだった。
「それじゃあ〝ミス〟・ラングラン……それとミスター・エミール・デュコ、ようこそペンデュラムクロック・ロータリへ。歓迎するよ」
そんな一部始終を、町外れのコラルから見ていた者がいる。
「驚いたな……」
囲い柵に身体を預け上体だけを〝銃声のした方〟に向けた男は、誰ともなくぼそりと呟いた。……本当は、コラルの中で野良仕事に精をだしている〝相棒〟に聞こえるように言っているのだが、まあ、聞こえなくともそれはそれでいい、という言い様ではあった。
が、相棒はしっかり聞いていたようだ。
「…――銃声は6発。38口径レギュラー弾ね」
背中越しに聞いたその声種はアルトだった。
男は眼鏡をいったん外して目許を揉むと、掛け直ししな、背後の〝相棒〟に向き直って続けた。
「全部当てたよ。それも地面から3フィート(1メートル弱)で」
「あら、それはすごい……!」
背中越しに応えた相棒は、自分の前のトリウマ車の荷台に積まれたベールの山と対峙していた。一つ『5ストーン7(〝7〟は7ポンド。だいたい35キログラムほど)』の干し草の塊にピッチフォークを突き刺しては、〝どっせい!〟と渾身の力を込めて地面へと放り落とす。さながらオートマトンのようだ。
豪快なその動きのたびに長身の彼女の背中で、テンガロン風の大きな麦藁帽から腰の辺りまで伸びる〝向日葵のよう〟に赤みがかる金髪が揺れている。
「――それはそうと」
やにわに彼女は手を止めると、くるり男の方に向き直って、すらりと長い腕の先をその細い腰に当てて言ったのだった。
「そろそろ手を動かしてくれませんかね〝ドク〟。休憩はもうおわりにして」