狙いを定めた猫
駆け出したオレリーの狙いはラーキンズとエンシーナス、ただ二人だけだ。
行く手を阻む30人からのレンジャーと〝ならず者〟どもにも一向に怯むことなく、三つ編みの赤毛の小柄な背中が躍動する。
前方左手に居た2人は、銃を構えた途端、周囲に散弾の雨を受けて得物を取り落として後退した。その〝露払い〟は町長の邸宅の二階からの3連射で、エミールのM2887レバーアクション散弾銃だった。
邸の向かい、オレリーとマルレーンからは死角の建物からも一人飛び出してきたが、そいつはバーニーの二丁拳銃によって地面に転がることになった。
これで大路の手下どもは、二階の〝狙撃手〟に、あらためて対応を迫られることになった。
そんな、判断に迷い混乱する男どもの間を、オレリーが駆ける。
右手のトリウマ車の陰から伸びあがって散弾銃を構えようとした男は、マルレーンが排除した。
もうこのとき、オレリーは10ヤード(9メートル)ほど進んでいる。
ラーキンズの周囲を固める5人のレンジャーが、エンシーナスの命令で、ヴィンチェストカービンの銃列を向けてくる。
その射線をオレリーが推し量るより先に、マルレーンの〝レーリチ〟が火を噴いた。
5人は、ある者は銃を飛ばされ、またある者は後ろに仰け反って倒れることなった。
オレリーは〝若い猫〟といったしなやかさと素軽さを感じさせる動きのまま、残り10ヤードの距離を一気に詰めた。
倒されたトリウマ車の向こう側で腰を沈めたラーキンズが銃を抜く。無駄のない正確な動作で向けられた銃口は、眉間の辺りを狙っていた。
疾駆するオレリーは、わずかに小首を捻りつつ腰を沈める。
銃弾は、オレリーの右の額のわずか2インチ(5センチメートル)ほどの先を掠めるように抜けていった
ラーキンズが2発目の撃鉄を起こす動作の間に、オレリーは視界左手の3、4人に向け2発連射して牽制し、目の前に迫ったトリウマ車の底を蹴った一跳びで飛越する。
そして空中で2発、ラーキンズとエンシーナスの脇の男どもの手元を撃って、そのまま敵の懐へと飛び込んだ。
焦ったのはマルレーンだ。
狙いを定めた猫の剽悍さで敵の〝本丸〟に飛び込んだオレリーは、そこまでに4発を使ってしまった。
保安官とレンジャー大尉の周辺にはまだ5人以上いる。単純計算で弾丸収支が足りていない。まとまった動きを見せたレンジャーを咄嗟に撃ったことで、マルレーンの弾倉もいま空となっている。
……と、そんな思考を他所に、当のオレリーはエンシーナスの前に降り立った。
ラーキンズなどとは比較にならないほど緩慢な動作で銃に手を掛けた大尉の二の腕を、オレリーは掴む。そのまま引っ張り込んでたたんだ肘を左の胸に突き込むと、流れのままに肘を押し込んで突き倒す。大尉はそれで動けなくなった。
その動きを目で追ってしまったラーキンズは呆然となっている。
背中越しに男数人の銃を扱う気配を感じる。
オレリーはその場でくるり身を翻し、先ず背後の男たちに銃口を向けて牽制し、そのまま半身を回して再び銃口をラーキンズへと向け正対した。




