オレリーは、つけ込むことにした
ふたりに一番近い障害物は進行方向左手の酒場の樽で、その陰には4人ばかりの自警団員が居た。2人がSASSを、あとの2人がヴィンチェスト銃とショットガンの銃口を向けてくる。
歩き始めたマルレーンは、ほんの小さく小首を振っただけで、その射線を外した……のだったが、実際に発砲できたのは一人きり。その彼の放った1発は、マルレーンの金色の鬢髪を数条散らすことはしたが、しかしそれだけだった……。
マルレーンは〝レーリチ〟を向けることすらせず、彼らを無視した。
その4人は、直後のオレリーの4連射によって排除されることになったから。……それぞれに1発ずつの4発。うち3人は、コッキングすることすらできずに銃撃を受けた。
4人への対処をオレリーに任せたマルレーンは、もうそのときには右手の次のバリケードから飛び出してきた2人に発砲して1人の銃を弾き落とし、もう1人の足を撃ち抜いている。
全弾を撃ち終えたオレリーは、シリンダーを開放しリロードに入った。
実包長が短く〝小振り〟な38口径レギュラー弾は、彼女のような小さめの手でもなんとか6発を一度に扱える。ほとんど手元も見ずに装填すると、もうコッキングまでを終えてしまった。
……このとき、右手のバリケードの男たちからは、しっかりマルレーンの身体を盾にしてその陰に隠れるよう位置取りしていたのは〝ご愛嬌〟だ。
そうして一連の流れの最後にマルレーンは〝銃を弾いた方〟が予備の銃に手を伸ばすのに反応して、シリンダーに残った最後の一発をその胸へと送り込んだ。
彼は後ろに倒れ込み、障害物として重ねていた棺を派手に押し倒し、そのうちの一つに納まって動かなくなった。
――…これで11人。……あと残り24、5人くらい?。
流れのままに今度はオレリーが前に出ると、マルレーンはシリンダーを横に振り出し、空薬莢を地面へと落とす。
彼女の〝レーリチ〟は、38口径でも実包長の長いロングシルト弾。……オレリーの使うレギュラー弾と比べ女性の手で扱うには少々つらいものがあるが、腰のポシェットから取り出した〝6発の実包を束ねた〟器具をシリンダーに充てると、あっという間に装填を終えてしまった。
そんな物の存在をしらないオレリーは、全弾装填されたシリンダーがフレームに収まる金属音を聴いたときに「やけに速い装填ね」などと思ったりしたのだったが、いまは詮索はしなかった。
それよりも〝しなければならないこと〟が目の前にあったから。
大路の先に、ラーキンズの苦虫を噛み潰したような表情を見た。隣にはレンジャー大尉の群青の制服に身を包んだエンシーナスもいる。
距離にして20ヤードほど……。一駆けだ。
周囲を固めているのはまだ30人ほどはいそうだったが、飛び出してきたのがまさか女ふたりきりであったことに唖然として混乱し、半分は銃を向けてくるのも躊躇っている感じだ。
オレリーは、そこにつけ込むことにした。
この馬鹿騒ぎを終えるのに一番効率のいい方法に取り掛かることにした彼女は、それを始めるタイミングを求めて駆け始める――。




