「わたしもいきまーす!」
6発を撃ち終えたオレリーは窓の脇の壁の裏へと身を隠す。
その影を追うように銃撃が窓枠を襲った。
オレリーは、ほんの数フィート横を銃弾が飛び込んでくる窓際で、中折れ式のフレームを折って排莢、正確な手付きで38口径レギュラー弾を装填する。早い!
バレルを戻し、手早くコッキングしてシリンダーの回転位置を合わせる。
「――わたしとエミールが一階に下りる!」
そう宣言し終えたときにはもう階段へと駆け出していた。
はいはいと、エミールが押っ取り刀で続けば、「わたしもいきまーす!」とマルレーンも後を追った。
これであとに残った四人が、町長の護りと二階からの牽制、という役割となった。
銃声の途切れるわずかな合い間にM2873ライフルを窓から通りに向けて突き出すドクは、先に見た光景に次のような心証を得たのだった。
――それにしてもオレリー・ラングラン。あの娘も尋常じゃないな……。
が、それはそれとして、ハンマーを起こしたときには、あのとき〝最初の一弾〟は、ラーキンズ保安官かエンシーナスに送り込んでおけば楽だったかと、そんなことを思っているのだった。
「ねぇオレリー……」
マルレーンは一階の階段ホールに降り立ったオレリーの背に訊いた。
「…――ひょっとして、あなたも〝視えて〟るのかしら」
一階の造りは部屋数が多く、その全てを三人で防ぎ切ることは難しい。そんなことを考えていたオレリーは、マルレーンのその問い掛けを半ば聞き流した。
階段ホールとエントランスホールを繋ぐ広めの廊下を、銃を持たない左の肩をすぐに前に出せるよう腕を胸もとに折りたたんで進む。
乙女乙女した〝見た目〟は父親から享けた訓えで、そうするのは、敵と正対したときにはすぐに左の肩口を前にして心臓をはじめとした急所を隠すためだ。
さほど慎重にも見えない足取りながら、しっかりと耳を澄まし、周囲の様子を窺っている。
エントランスの脇の部屋は、南と西の二面に採光の窓が大きく取られていて、その明るい窓の周辺に忍び寄る人の気配を感じた。
手にしたW=Tリボルバーのセイフティを外す。……そのときになって、
――え?
先のマルレーンが問い掛ける中で使った単語がようやく琴線に触れた。
――〝視えて〟いる?
唐突に怪訝な表情を浮かべることとなったオレリーの横を、マルレーンが、すぅ、と追い抜いていく。
そのまま件の窓の部屋の中央まで無造作に進むと、窓の外にその長身を晒してみせた。
皆が息を呑むその一瞬の後、激しい銃声がして、マルレーンは二つの窓の向こう側とそれぞれ激しく銃撃を交わすこととなる。
わずかな時間、ほとんどその位置を変えることなく部屋の中央で〝撃ち合い〟をしたマルレーンは、南と西の二面の窓に取り付いていた四人のレンジャーを、瞬く間に排除していた。……その間、彼女は一発も銃弾を受けていない。
オレリーは、それで得心した。
このとき、目の当たりにしたエミールは驚愕の表情となっていた。
――こんなことが出来る人間が他にもいたのか……。
それは、オレリーが二階でしてみせたことの〝再現〟だった。




