〝わたしのまえから消えなさいっ〟
「バカなことをしてくれたもんだ……皆殺しにされるぞ‼」
自分が主人である応接室の床に這いつくばることとなった町長は、青くなった顔をバーニーに向け、その顔を真っ赤にして噛みつくように吼えたのだった。
バーニーの方はわざとらしく肩を竦めると、冷笑を浮かべてこう返した。
「そのまま伏せて大人しくしてるんだ。でないと頭ふっ飛ばされるぞ。いまあんたに死なれるわけにゃいかないんだ」
二の句の告げなくなったふうの町長に、冷静なオレリーが質した。
「……メイドは何人? ご家族は?」
「――…妻と娘はティリニッジだ。明日の昼まで帰ってこない。……メイドは1人だよ」
町長の家族が不在なのは幸いだった。いま邸にいる女子供は、先のメイドただ一人らしい。
「エミール!」 オレリーはエミールを向いた。「――一階のメイドを外に!」
エミールは頷くと、ソードオフ(銃身を切詰め銃床も短くした型)にした愛用のヴィンチェストショットガンのレバーを引いてコッキングし、階段を降りていった。
それを見送ってから、オレリーは窓の外に視線を戻して声を張り上げた。
「ミスター・ラーキンズ! いるんでしょ?」
「保安官! ……だよ、ミス・ラングラン!」
応答はすぐに返ってきた。すでにガラスの飛び散った窓枠越しに目線を走らせ、声の主を捜す。
「――ここだ」
わざわざ片手を上げてよこしたラーキンズの姿は、通りの向こう、巡回判事とレンジャー大尉と一緒にあった。
「いまからメイドを外に出すわ! 彼女は無関係よ。だから撃たないで!」
ひとつ鼻で笑って、すぐにラーキンズは応じた。
「……ふんっ、いいだろう! (メイドが出てくるっ、誰も撃つな!)」
それからいくらもしないうちに、一階のエントランスからメイドは外に出た。
レンジャー隊員にメイドが収容されたのを確認し、ラーキンズはオレリーに声を張り上げて訊いた。
「さて、おまえたちはどうする? 町長とバッカルーの若造……それに善からぬことを企んでいるレンジャー二人を引き渡し、二度とルズベリーに戻らないと誓えば罪には問わない…――どうだ?」
オレリーは形の良い鼻梁で、フン、と鼻を鳴らすと、一応、室内の面々に視線を巡らせた。
マルレーンは窓の外に向かって「べ」と舌を出して見せ、それをやれやれと笑ったドクは、肩から外したの〝トラップドア〟のブリーチブロックを開いて.45-70-405弾を込めてみせた。
階段を上がってきたエミールは何ごともなかったかのように窓際に移動し、バリーは〝覚悟を決めた〟というふうにSASSをホルスターから引き抜いた。
町長は真っ青な顔で、事の成り行きに目と耳とを聳てている。
C.C.は不快気に眉を顰めると、銃を握ってない左の掌を鋭く振って激しく拒絶した。
バーニーは、余裕綽々といった表情でいる――自分たちが〝突き出される〟などとは露とも思っていないらしい。
オレリーも覚悟を決めて、壁を背にし、窓枠越しに声を張り上げて返した。
「〝わたしのまえから消えなさいっ〟‼」




