「俺がそう仕向けた」
少々不安な顔つきとなったメイドがいったん階下に下がり、ロータリの〝流れ〟一行とカウボーイのバーリーらを案内して再び上がってくる。すると、決して狭くはない応接室が人でいっぱいという観となった。その後メイドは、逃げるように階下へ下がっていった。
部屋に入った〝流れ〟らの振る舞いは、大きく二種類に分かれた。
オレリーとマルレーンはこれまでの話の流れを気にする様子で、レンジャー法曹隊員と町長の顔へと盛んに視線を遣ってくる。
エミールは室内に視線を巡らせると、目立たぬように壁際に身体を寄せた。
バリーはときおり険呑な目線を町長に向けはしつつも、表情をころし、室内を見回している。〝ドク〟・アチュカルロなどは、肩の〝トラップドア〟を肩から下ろすこともなく、なんとはなしに、といったふうに窓際から外の景色を眺めはじめた。どうやら法曹隊員と町長との話には興味はないらしい。
さて町長は〝招いた覚えのない客〟の群れへの挨拶など最初から放棄した。
「――…それで、なぜ私が巡回判事とレンジャーの大尉を告発しなければ、立つ瀬がなくなるのかね?」
改めてバーニーに向き直り先の話の続きを促す。
レンジャー法務官助手は身を乗り出すようにして表情を改めた。
「話がこのまま進めば、町長、あなたは判事の風下に立つことになる」
不躾な言葉に町長の口許が歪む。バーニーはしっかりとそれを目線の先に捉えてから、俗っぽい笑みを浮かべて町長の顔を覗き込む。
「実際、いまだってそのようなものでしょう? バッカルーとの揉め事にレンジャーを抱き込んだのは判事だ。判事と保安官が、あなたの頭越しに仕切ってる」
嫌な顔をした町長に、薄ら笑いでバーニーは続けた。
「――このまま判事に〝食い物〟にされ、その上エンシーナスは、この件で得た金を使って〝より有力な町〟の町長選に出る。……当選すればタウンシップではあなたより大きな影響力を揮うことになるでしょうね。となると、あなただけが〝好い面の皮〟、というわけだ」
町長は〝私は落ち着いている〟という表情を繕い、正面のバーニーへと言った。
「残念ながら、そんな〝安い手〟には乗らないよ。乗ったところで、私には何の益もない」
そして余裕が失われていないところを見せて笑ってみせた。
「……そーですか。結構」
バーニーもバーニーで、不敵な笑みを浮かべてみせる。
「でも、あんたは是が非でもそうしなけりゃならない。――でなきゃあんた、あいつらから排除されることになる」
これまでの〝事務口調〟から豹変した法務官助手に、町長が怪訝となると。バーニーはにやりと笑った。
「俺がそう仕向けた」
「ちょっと、あなた何をしたの?」
話の変な雲行きに、C.C.が不安そうになって隣の相方を質す。バーニーが事も無げに応えた。
「エンシーナスと繋がりの深い隊員に〝法務官補が大隊付き法務官に宛て報告書を出すつもりになった〟と吹き込んだ」




