それはまるで雷鳴のように
髭面男の挑発に(内心嬉々として)〝ボトルトス〟でと応じたオレリーは、町の外れまで歩いて行くと、6本の酒瓶が空中に放り投げられるのを、固唾を呑んで見守る野次馬たちとともに待つこととなった。
これは早撃ちの遊びで、合図とともに放り投げられた酒瓶を、クイックドローで空中にあるうちに撃ち抜くというものだ。利点は、人が死んだり怪我をしないこと。
それでも実弾を使うので流れ弾で怪我人が出ぬよう、野次馬たちは、銃口の向くことのないオレリーの背後に、十分に距離を取って退けさせられている。
町を背に荒野の方を向いて立つオレリーの左右の視界の端には、件の髭面男の取り巻き男ふたりが、右手に1本、左手に2本、それぞれ酒瓶を握って立っている。
「準備はいいかい、嬢ちゃん」
右の端の男が確認した。その表情は〝無茶に挑戦している身の程知らずな小娘に向けるそれ〟。――…普通の男なら1本当てればたいしたもの。〝渡り〟なら2本撃ち抜く者もいるだろう。3本なら達人だ。それをいっぺんに6本だなどと。同じ表情を、町長と保安官もしていた。
だがオレリーは「ええ」と応え、瓶が放られる荒野の方を向いた顔の顎を引いて合図を待った。6本という数は、彼女の方から指定したのだ。
左足を前に出した半身の構え。
ほどよく使い古されたガンベルトは、流行遅れな旅行ドレスの踝の覗く短めの丈の釣鐘型のスカートの上に巻かれている。やや大きめのホルスターの位置は左腰のクロスドロー。右手はグリップを握り、左手はホルスターの上に軽く添えている。得物は……判らない。
「〝3〟でいく。高さは20フィート(6メートル)だ――…」
緊張感が高まってゆく中、髭面男の野太いが宣言した。左右の男が肯いて返す。野次馬の声も治まってゆく。
「〝1〟……〝2〟……、〝3〟!」
合図で、酒瓶は20フィートの高さ――それは概ね2階の高さだ…――に放られた。
6本の瓶が、次々と最高点にまで昇っていく。周囲の野次馬の視線も、それを追って宙へ向く。色とりどりのガラスの瓶が、秋口のまだまだ強い陽光を反射して光を放った。少し眩しい。
この時点で銃声はまだ無かった。銃の扱いに長けた者の中には、失望の念が広がったかも知れない。
通常ボトルトスでは、的の酒瓶が最高点に達する前後を狙うのがセオリーだ。速度が消され動きが止まって狙いやすい。頂点までいってしまえば、あとは落下に転じ速度を乗じていくだけ……。狙いも儘ならなくなる。
女――…それも年端もいかない少女とはいえ、仮にも〝流れ〟なのだから、せめて1発なり引き金を引くだろうと思っていたのだが……。
落下に転じた瓶を目で追う野次馬の中には、そんなふうに思う者も多かったろう。
もう瓶は、地面まで3~4フィート(1~1.2メートル)の高度にまで落ちて来ている。
銃声がこだましたのは、そのときだった。
1発ではない。重なって連なって、それはまるで雷鳴のように轟く――。
周囲の野次馬がそれが銃声であることに気付いたときには、6本の酒瓶は6本とも粉々に砕け飛んでいた。