「…〝正義〟のためです」
バーナビー・デイヴィスが振り子時計の置かれたホールに再び姿を現わしたのは、きっちり丸一日が経過した頃だった。
C.C.デル=ペッツォ法務官補と共に現れたバーニー法務官助手は、
「これから町長の邸に出向くが、君らはきっちり30分後に、後から訪ねてきてくれ」
と、いきなり勝手なことを告げたのだった。
要領の得ないエミールが、隣に立つC.C.の顔を見ると、彼女も同じような表情で小さく肩を竦めて返すばかりだった。彼女も何も聞かされていないのかもしれない。
バーニーは構わずに続けた。
「ああそれから、バッカルーからはひとり……そうだな、あの若いガンスリンガーだけ、一緒に来てもらってくれ。他は、まぁ……(役に立たんだろ)」
そう言ってその場を後にしたのだったが、ホールを出て行きしな、まだ昨日のことを引き摺っている節のオレリーを目に留めると、
「…――ミス・ラングラン。そんな萎れた表情じゃダメだ、顔を上げろ。どんな失敗だって取り戻せない失敗なんてない」
そうして派手なウィンクを彼女に残し、スイングドアを押し開いて出て行ったのだった。
バーニーの言葉を反芻しながら彼の背中を見送ったオレリーは、エミールの視線に気づくこととなった。
ばつの悪いオレリーが、これはどんな表情を返すべきか、と思いあぐねるうち、エミールが黙って頷いてきた。
それで彼女も、黙って頷いて返す、ということで済ませられた。
――取り戻せない失敗なんて、ない。
どうやら、くよくよなんてしている暇はなさそうだ。
邸の応接室に通されて20分あまりが過ぎ、C.C.は、邸の主人と自分の上司の直属の部下との間のやり取りが、いよいよ佳境を迎えつつあることを感じ取っていた。
「……よくわからないが、なぜ私がカウペルス巡回判事とエンシーナス大尉を告発しなければならないのかね? 君は、彼らがバッカルーとの係争を恣意的に扱っているというが、そんな証拠はどこにもないだろう? そもそも正式には調停に持ち込まれてないと記憶しているのだが…――」
「――〝正義〟のためです」
バーニーは町長の息継ぐタイミングを見計らって口を挿んだ。そうして〝何とも言えぬ表情〟となった町長を面白がるふうに、
「……なんて〝野暮〟はいいません」
などと、目を閉じ肩を竦めて前言を翻してみせた。
そのレンジャー隊員にあるまじき態度に、隣でC.C.が、しかつめらしく口許を引き結んだ顔を顰め俯いた。
そんな役職上位者の様子をも面白がるふうに、バーニーは続ける。
「そうしなければ、あなたの立つ瀬がないからですよ」
どういうことだ? という視線を町長が向けてきたところで、メイドが更なる来客を告げた。
――時間通り。
バーニーは町長の顔を見遣ると、頷いて、
「我々が同席するよう呼び付けました。どうぞ上げてやってください」
と、新たな来客への応接を促した。




