これは〝不正義〟だ
「町はこの係争の一方の当事者ですよ!」
オレリーは激昂する一歩手前の声で言い募った。
「それは君の視点からの主張に過ぎない。我々は巡回判事から詳しい情報を得た上で活動している」
「巡回判事は…――」
エンシーナス大尉の応答に彼女は反射的に声を上げかけたが、彼の目と表情とで、ここで感情を前面に押し出すのは得策でないだろうことを覚り、次の言葉を呑み込んだ。
「巡回判事がどうだというのかね?」
エンシーナスが冷厳な表情で質してくる。オレリーは黙って睨め付けるしかなかった。
と、そのとき、隣にいた男が二人の会話に割り込んできた。
「〝巡回判事は町の有力者の方々と繋がっている〟……そのお嬢さんの言い分とは、おおかたそんな処でしょう」
この男こそ、当の中西部タウンシップ同盟の第三席巡回判事、ロベルト・カウペルスであったが、彼の顔をオレリーは知らない。ただ、血色の悪いこの男の顔は、ぜったいに好きになれない、と思いながら、彼が件の巡回判事なのだろうと理解したのだった。
「何か証拠がおありか?」
カウペルスがほくそ笑むように口の端を引き上げる。オレリーは口を引き結んで嫌悪を示した。
「先にも言ったが、我々は係争の調停でルズベリーにきたのではない」
エンシーナスが話を引き戻した。
「町長ならびに中西部タウンシップ同盟 第三席巡回判事の要請により、ルズベリー郊外の伝道所跡地を不法占拠する不逞の集団の排除が目的である。これは〝緊急を要する事案〟であり、本事案に係る行動の裁量について、一切が私に一任される」
そう宣言をしたエンシーナスの隣で、ぎこちのない笑みを貼り付かせた町長が、言葉の節々でいちいち肯いている。
オレリーの耳を、上機嫌のラーキンズの野太い声が打った。
「これでわかったろう、お嬢さん」
ぐっ、と息を止めてからゆっくりと吐き出したオレリーに、勝ち誇った笑みの目を細めて言った。
「……〝正義〟ってのは勝ち取るもなのさ。頭と時間を使ってな」
オレリーも、いまはもう、はっきりと敗北を感じている。
それでも蒼褪めた顔を俯かせることなく、真っ直ぐに〝大人たち〟を向いた彼女の横顔は、いっそ凛々しく立派だといえた。
法務官助手のバーニー・デイヴィスは、小さく頷くと、側らの法務官補の横顔に横目をやる。そこにも〝よく似た表情の〟目があった。
C.C.デル=ペッツォは、エンシーナスとカウペルスとのやり取りから、この事態の裏側でいったい〝何が〟あったのか、凡そのことは理解した。
これは〝不正義〟だ。
目の前で辱められている――そう、これはもう衆目の前で辱められているようなものだ! ――ミス・ラングランには同情を超えたシンパシーを感じた。
それでも〝緊急を要する事案〟の中では、法曹隊員である自分も、彼の指揮権に干渉はできないのだ。だからこの仕打ちに屈せずに耐えている少女に、いまは何もしてやれない……。
だが自分は〝法曹の世界〟の端くれに身を置いているのだ。これを看過することはできない……。
C.C.は、自らの中の正義を貫くにはどうすればいいか、考え始めた――。




