「正式に抗議します」
「見ての通りだよ、嵌められたんだ……」
バリーは、オレリーの手の内の水筒から二口三口を喉に流し込んで、ようやく声を出せるようになると、今度はペインの口許へと水筒を持っていってやっているオレリーの横顔に、視線を上げることなくそう耳打ちした。
視線を上げなかったのは、〝こうなることはわかっていて然るべきことだったのに、彼女の熱意に当てられてローイードへと向かったことを後悔している自分の目〟を、彼女に見せたくなかったからだ。
それでも状況は正しく伝えなければと、彼は言葉を続けた。
「…――営地に着く前に街道で小隊に行き合うとラーキンズの手下がもうそこにいて、俺とペインはその場でお縄さ」
その言葉の響きの中にバリーの自嘲の想いを聴き取って、オレリーも視線を落とした。
彼と彼の仲間と自分のために、言葉を探したが適当なものが出てこない……。それでも、ただ意気消沈しているわけにはいかなかった。
オレリーは立ち上がって、自分を励ますように、周囲を見渡して声を上げた。
「法務官はいない? 誰か法曹隊員は来てないの?」
C.C.の横でバーニー・デイヴィスが目だけを向けてきた。法務官助手の彼より、法務官補の彼女の方が役職の上位者である。
一応、礼儀としてエンシーナスの方を向いてから、C.C.は一歩を踏み出して応じた。
「デル=ペッツォ法務官補よ。大隊付き法務官の助手と一緒に同道してきた」
視界の中で、青紫色の旅行ドレスの少女の頭が、勢いよくこっちを向いた。
次の瞬間、自分を〝見た〟勝気そうなすみれ色の瞳の目が、少しばかり失望したようだった。
おそらく自分が〝それほど年齢のかわらない女性〟だったことがそうさせたのだろう。
C.C.は〝ご期待に副えずごめんなさい〟というような表情は勿論せずに、レンジャー法務官補の威厳を繕って少女を真っ直ぐ向いた。
少女は一つ頷いて背筋を伸ばすと、凛と威儀を正して口を開いた。
「わたしはオレリー・ラングラン。このふたりは町との係争についての調停を求めてレンジャー営地を訪ねたはずです。この仕打ちには、正式に抗議します」
「そういう話は聞いてないわ」
法務官補は冷徹に事実を返したが、少女の話には興味を覚えたようだった。
「けれど、もしそれが本当なら…――」
少女の真摯な目に、法務官補がそう応じかけたとき、
「――デル=ペッツォ法務官補……」 エンシーナス大尉がそれを遮った。「我々はその件でルズベリーに来たのではない」
どうやら隊の責任者らしい上級士官の〝好意的な響き〟など欠片もないその言い様に、オレリーの表情が再び強張る。
エンシーナス大尉は事務的な口調と表情とで、こう続けた。
「我々はルズベリーを不法に占拠した不逞の輩を排除すべく、独自の判断で動いている」
オレリーはすぐさま反論した。
「不逞とは何を以てそう言うのですか。ルズベリーと彼らの間に、たしかに行き違いはありました――」
それをエンシーナス大尉は、にべ無く封じた。
「細かなことは〝私〟が判断する。……すでに町と巡回判事から状況は得ている」




