ブルネットの下の貌
エンシーナス大尉に率いられた1小隊強――25駝のトリウマは、町のメインストリートを常歩で、整然と二列の縦隊で進んでいた。
先頭を行く大尉の乗駝(駝=トリウマ)のすぐ後ろには、隊旗を掲げる旗手駝と、それからもう一駝が、それぞれに捕縄を掛けられたカウボーイ――バリーとペイン――のふたりを曳いて付いていた。……それは明らかに〝罪人の連行〟の態である。
ふたりの顔に傷などは無かったが、憔悴し、疲労困憊といったその歩容から、少なくとも町に入るかなり前から、こうして荒野を曳かれてきただろうことは容易に想像できた。
――…これではただの私刑だわ……。
レンジャー法務官補のカルメーラ・キアラ・デル=ペッツォは、ふたりのすぐ後ろをトリウマに乗って続きながら、そんなことを思っていた。そんな彼女の形の良い頭部の、ショートカットにしたブルネットの下の貌には、はっきりと嫌悪の表情が浮かんでいる。
カウボーイの二人は、ローイードの営地を進発した直後の荒野で行き遭うと、その場で大尉の命令によって拘束されたのだった。
隊の法務官補であるC.C.は、レンジャー営地に訴え出てきたカウボーイをその場で拘束したエンシーナスに、職責を果たすべく抗議をした。それをエンシーナスは、巡回判事からの〝緊急を要する事案〟への対応中であると一蹴したのだ。
その〝緊急を要する事案〟とは、ルズベリーでのカウボーイらによる暴動への対処であり、このような場合、レンジャーの行動裁量は現場指揮権者に一任される。C.C.は引き下がるより他なかった。
ルズベリーからの状況を伝える早駝は前日の夕刻には到着していたが、ローイードの営地にとび込んできた保安官助手によって持ち込まれたカウペルス巡回判事の手紙の内容とやらは、C.C.には知らされていない。
そういった経緯もあって、エンシーナスがルズベリーの町に入るに当たり二人のカウボーイにとったこの所業には、法執行者たるレンジャーの権威を貶めるものだと二十一歳のまだ十分に若い顔の眉を顰めるC.C.なのであった……。
そのC.C.は、隣に並んでトリウマを歩ませる法務官助手の声を聞いた。
「――いまのアレにゃ、見たい状況しか見えてないんだろな」
アレ…――エンシーナスやその部下たちに聞こえようとも、それはそれで構わない、というふうな言い様だった。
流し目気味に、目線だけを横の法務官助手に向けると、青いレンジャーの制服を粋に着崩した伊達男が、つまらないものを見るかのような視線を、先を行くエンシーナスの背中へと向けている。腰に吊ったホルスターは左右に二つ――二丁拳銃だ。
レンジャーでも荒事の矢面に立つ〝執行畑〟にはこういう伊達男は珍しくないが〝法務畑〟には珍しい。もっとも、危険な臭いを漂わせる風体の彼は、酒とギャンブル、そしてトラブル、といった世界に生きてきたという〝曰く付き〟だった。
その〝曰く付き〟は上司(大隊付き法務官)の助手で、共にローイードの営地から送り出されてきていた。名前をバーナビー・デイヴィスという。




