不承不承
翌朝――
レンジャー営地のあるローイードまでの4日の旅程に立ったのは、フレッドの兄のバリーと、もうひとり、神経質そうな顔をしたノッポのペインだった。
バリーは早朝にロータリの在所でもある酒場を訪ねると、フレッドの介抱をくれぐれも頼むと、残ったバッカルーについては〝あんたの指示に従わせることにした〟のであとは宜しくとルズベリーを発っていった。
勝手に後事を託されたオレリーは、さっそくバッカルーとスチームコーチの運行業者を呼びに行かせると、保安官事務所にラーキンズを共に訪ね、こういった。
「スチームコーチの運行を再開させるわ」
何も聞かされていなかったバッカルーたちが互いに横目を呉れ合うことになった。すかさずオレリーは、
「ただし――」 と、バッカルーたちの不満が顕わになる前に言継いだ。「コーチに乗れるのはこの町に関わりない旅人だけよ」
これにはスチームコーチの業者が難色の声を上げかける。
「おい、なんだってそんな面倒くさ(いことを)…――」
オレリーは再び遮った。
「町の人間も係争の当事者よ。バッカルーに牛を返さないで町の側だけが利益を得るのは信義にもとる。……でしょう? でも〝たまたま立ち寄った旅行者〟には関係のないことだから…――これは妥協案」
コーチ業者の中年男は、聞き終えると〝理屈は解ったが納得はし難い〟という表情を浮かべることになったわけだが、晴れやかな表情のオレリーに、表立っては何を言うこともなく不承不承に肯いて返したのだった。
ラーキンズは、ときおり首を左右に振りはしたものの、彼女を遮るようなことはしなかった。そして話を聞き終えるや、手下の保安官助手に大声を張り上げたのだった。
「カウマンス! エンリケス! お前たち、ステーションに出張っていって、町の人間がコーチに乗ろうとしたら〝丁重に〟ご遠慮いただけ」
「え?」「なんで俺たちが……」
名指しされたカウマンスとエンリケスのみならず、オレリーも怪訝となってラーキンズを見る。〝保安官代理代行〟は、やはり大きな声(それが地声なんだろう)で応じた。
「そのお嬢さんじゃ、誰が町の人間かどうか判らんだろうが! レンジャーが営地からやってくるまでの間は、揉め事は起こさないようにする取り決めだ」
ラーキンズは面倒くさそうに言って、手下ふたりを事務所から追い出すように急き立てた。
言い方は〝アレ〟だが、しごく真っ当な判断をしてみせたラーキンズに、オレリーは少しばかり彼を見直したのだった。
こうしてスチームコーチの運行も再開され、ローイードのレンジャーがルズベリーに姿を現わすまでの間、表面的には町に平穏が戻ったのだった。
……が、それが6日後には、〝最悪の形〟で裏切られていたことを、オレリーたちは知ることになる。




