「わたし、…強引かしら」
ラーキンズとの〝話〟を付けたオレリーとマルレーンが酒場まで戻ってくると…――
振り子時計の置かれたホールには伝道所のカウボーイのリーダーの姿があった。他のメンバーの姿が見当たらないところをみると、どうやら一人で来たのだろう。
賢明だった。あのタイミングで徒党のカウボーイが町に入れば、そこで撃ち合いが始まっていたかも知れなかった。
リーダーは、オレリーとマルレーンの姿を見るや席を立ち、開口一番に言った。
「まず、弟を手当てしてくれたことに礼を言わせてくれ。ありがとう」 と。
「ケガをした子供が道に倒れていたら、誰でもそうするでしょ」
オレリーにしてみれば手当てに当たったのはドクだったし、あの場合、医者を呼ぶのは〝渡り〟として当然の振る舞いだったから、ただ頷いて返す程度である。
それよりも彼女の方が胸を撫で下ろしたかったことは、まだ彼らが、周辺の同業者を集めて徒党を組むに及んでいなかったことだ。
それをされてしまっていたら、せっかくラーキンズと話を付けたのに、レンジャーに事案を持っていけなくなっていた。
オレリーは、案の定、感謝の言葉もそこそこに仲間のもとに戻って行こうとするカウボーイのリーダー(フレッド少年の兄。名前はバリーとだけ名乗った)を引き留め、ラーキンズとの談判の顛末を語って聞かせた。
そして「話がこうなった以上、この事案はレンジャーに訴え出なければならないわ」と宣ったのだった。
対するバリーは「たしかに弟のことでは感謝しているが、話がそうなったのはあんたらの都合で俺たちの都合じゃない」という表情を浮かべはしたものの…――
紅茶のカップを手もとに引き寄せて「いろいろあって時間は掛かったけれど、ようやくこれで話が進むわね」と、ひとり満足気な表情のオレリーに何も言えなくなったのか、彼女が一杯の紅茶を満喫するのを待って、こう言って笑ったのだった。
「――あんた、その見掛けの通り、強引なんだな」
そうして席を立って、
「ま、フレッドのことで借りも出来たし……、あんたのその〝気風の良さ〟に顔を立てて、今回はローイードくんだりまで行ってやることにする。めんどくせぇけどな」
と帽子に手をやって一礼すると、酒場の主人に銀貨を一枚ほうって――弟の看病に掛かる諸々のお代らしい…――、スイングドアを押し開けてホールを後にしたのだった。
あとに残った面々は、それぞれにオレリーの顔を盗み見ることになった。
まぁ、だいたいにおいて彼のオレリーに対する所感は、皆も共有するところだったから。
その夜、二階の部屋に引き上げたオレリーは、机の上で銃を分解整備しているエミールに、さり気なく訊いたのだった。
「ねえエミール……わたし、見掛けからして強引かしら……」
「あー……っと、そういうことは、ほら、人それぞれだから……」 手元の銃から目を離さないエミール。「――きっと彼には、そういうふうに見えたんだろうさ」
カチャカチャと金具の手元をのぞき込んだりして何とか切り抜けようというエミールに、小首を傾げるオレリーであった。




