「……上出来です」
「それで、〝話〟は何だったのかな?」
「伝道所のバッカルー……もう手を出さないと約束なさい」
ラーキンズは、真っ直ぐに応えたオレリーを見返した。それから言葉を探そうとしたようだったが、すぐにそれを止め、肩を竦めるようにして返す。
「あいつらは南の街道を不法占拠してる〝ならず者〟だ。町の治安を預かる身としては、受け容れられんね」
話にならない、とばかりに打ち切りに掛かった。が――
「牛のことで係争してるでしょ?」
オレリーも引き下がりはしなかった。
「あなた達は当事者なのだから公明正大とは言えない。――〝町の治安を預かる身〟と言ったけど、相応しいと言えるかしら?」
「はっは……っ‼」
ラーキンズはヤケクソ気味に哂うと、顔を赤くして捲し立てた。
「俺が相応しくない? けっこう! それで俺が〝何もしない〟と高みの見物に回れば、それでどうなると思う? 奴らは賭博場に〝遣っ付け〟に来るぞ。そうなれば自警団がお相手だ。あっという間に血の雨が降るさ。そのうえ、あいつらが周辺のゴロツキどもを引き入れでもすれば、もっと酷いことになるんだ‼」
「…………」
ラーキンズの言葉には、オレリーもマルレーンも押し黙ることになった。
彼の懸念は至極まっ当なもので、たしかに〝そうならない〟という保証はない。
「それでもあなたは信用できない」
オレリーのトーンが弱くなった。ラーキンズは鼻を鳴らして先を促す。
「……それで?」
オレリーは、内心で自分を励まして、ラーキンズを睨み返して言う。
「レンジャーの裁定なら納得できるわ」
「ふん……」
ラーキンズはもう一度鼻を鳴らすと、何を考えているのかわからない、薄い嗤いを浮かべて返した。
「いいだろう。一番近いレンジャー営地まで往復で4日だ。それまではこちらから手は出さないし、出させない」
意外なほどあっさりとその回答を得ることとなったオレリーとマルレーンは、最初、何を言われたのかわからなかったのか、厳しい表情を崩さずに身構えていたのだったが、一拍を置いてラーキンズの言葉を理解すると、〝鳩が豆鉄砲を食らったよう〟な表情になって彼を見返すこととなった。
ラーキンズの方は、そんな〝女渡り〟ふたりにもう〝用は済んだ〟とばかりに一瞥をくれると、保安官事務所の扉へ取って返し、姿を消したのであった。
事務所の中には、目端の利きそうな、少しばかり学の有りそうな風貌の男が安い応接セットのソファに座って待っていた。その手には琥珀色の液体の注がれたグラスがある。
「こんなものでよかったかな?」
「ええ。上出来です」
ラーキンズの問いに男は応えると、軽薄そうにも見える微笑を浮かべ、手に持ったグラスを掲げてみせた。
オレリーたちには知る由もないことだが、この男が中西部タウンシップ同盟の第三席巡回判事――ロベルト・カウペルスである。




