町を渡る風…
町を渡る風が、ふたりの〝女渡り〟のスカートを大きく孕ませた。
オレリーの背で赤毛の三つ編みが踊り、マルレーンはテンガロン風の麦わら帽子が飛ばないように手を遣って押さえる。
酒場から保安官事務所までの1ブロックの道すがら、ふたりは大路の真ん中を歩いている。
そうすることで、万一、銃で狙われたとしても、流れ弾で周囲に怪我人を出すことのないよう、との配慮ではあったが、本当のところは、怒りが先に立って人の群れの中を歩きたくはなかったからだ。
ほとんど肩を怒らせるようにして歩くオレリーのその姿に、町の人々もいよいよ険呑なものを感じとったか、遠巻きにして敢えて近づこうという者はいなかった。
隣に追いついたマルレーンも、敢えて言葉を掛けることなく、ふたりは並んで、黙々と大路を進んだ。
保安官事務所まで来たとき、事務所前の辻の〝トリウマ繋〟には2頭のトリウマが繋がれており、ガンスリンガーと思しき風体の男二人が、それぞれトリウマに水をやっていた。諸々から推して、彼らがフレッドを引き摺り回してロータリ前に打ち捨て、銃弾を撃ち込んできたのは間違いないだろう……。
男たちは、保安官事務所にまっすぐに近づいてきたオレリーとマルレーンを見止めると、何も言わず、ニヤニヤと笑いの浮いた顔を向けてきた。
オレリーは、そんな男たちを無視して歩を進め、事務所に十分声の届く距離で立ち止まった。
「ミスター・ラーキンズ!」
オレリーの声質はよく通る。感情の乗ったアルトは、弾劾する者の鋭さを帯びて街区に響き渡った。
ほどなく保安官事務所の扉が開き、ラーキンズ保安官と4人の助手――ということになっている〝ならず者〟…――が出てきた。向かいの建物の扉も開き、3人ほどが大路に姿を現わす。
「保安官! ……だよ、ミス・ラングラン」
ラーキンズはオレリーに向くと、両手を広げてそう言って笑い、余裕のあるところを示してみせた。
10人の男に囲まれた〝女渡り〟ふたりだったが、一向に動じたふうはない。落ち着いたアルトが続けた。
「あなたの任期は疾うに切れてると聞いたわ」
ここでラーキンズの表情がわずかに引き攣った。
「諸事情により選挙が実施できなくてね。町長の裁量で〝順延〟されてる。……その間は保安官の代理を務めて――」
「――…代理は町長」 オレリーはラーキンズの饒舌をぴしゃりと遮って訂正してみせた。「……そして現在のあなたはその助手でしょ。〝保安官代理代行〟というのが正しいのではなくて?」
ラーキンズは苦虫を噛み潰したような表情になってオレリーを睨む。――〝この口の達者な小娘が……〟とでも思ってるのだろう。
場はいよいよ険呑な雰囲気となった。
周囲の助手たち――〝ならず者〟らは、もういつ暴発してもおかしくない感じだったが、仮にそうなったとして、保安官代理代行は、部下の蛮行を止めるということをするだろうか……。




