〝警告〟と〝見せしめ〟
「おい誰か医者を呼んでやれ…――」
騒ぎの収まりつつある外の様子を窺うと、扉の向こうからそんな声が聞こえた。
スイングドアを押して外に出たオレリーとエミールは、辻の真ん中に〝マチルダ〟のようなものが打ち捨てられているのを見た。
オレリーは一目見てそれがマチルダではないことを見て取ると、傍らの〝相棒〟を向いた。
「――エミール、〝ドク〟を呼んできて……早く!」
相棒は「わかった!」と、ドクとマルレーンが泊まる民宿の方へと駆け出した。
辻に打ち捨てられたのは、カウボーイの、――あの〝伝道所への小路の入口に立っていた〟少年だった……。
ドクがホールに下りてくると、オレリーたち〝渡り〟とロータリのコミッショナー・グレンの視線が集まった。
「どう? 具合は」
座を代表してオレリーが問うと、ドクは卓の上のビスケットに手を伸ばしつつ説明した。
「それほど酷くはないよ……。裂傷と、あちこち打撲もしてるけど、内臓は無事だし骨折もしてない」
辻に倒れていた少年――名前はフレッドといった――がまるで〝ぼろ雑巾〟のようだったこともあり、怪訝な目になったマルレーンがドクに問い質した。
「トリウマに牽かれたんでしょ?」
疾走するトリウマから落馬して引き摺られれば、たいていは大けがだ。
ドクは、咀嚼したビスケットを飲み込んでから、のんびりとした口調で応じた。
「じっさいに引き摺られたのは10ヤード(9メートルくらい)ほどじゃないかな。〝警告〟と〝見せしめ〟が目的で……、加減はされてる」
「〝警告〟……〝見せしめ〟……」
言葉を呑んだオレリーに、ドクは、一瞬、躊躇ったようだったが、肩を竦めて言継いだ。
「一応言っておく。ここフロンティアじゃ〝推定無罪〟は力で呑ませるものだからね」
が、どうやらそれを彼女は聞いてはいないようだった。
――これは〝警告〟で〝見せしめ〟で、だから命は取らない
少し痛い目に遭わせただけだぞ、というわけ……
オレリーの口許が〝溜息〟と〝怒り〟とで歪んだ。右手が、左の腰――…クロスドローの位置のホルスターに伸び、その留め金をそっと撫でる。
傍でそれを見たマルレーンが、何とも言えない表情をドクへと投げ掛ける。
オレリーは、ひとつ黙って頷くと、そんなドクの面前を横切って店の戸口の方へと歩き出した。
「エミール、バッカルーたちに伝えて――『動くな』と」
ゆっくりと首を左右に振って肩を竦めていたエミールが「わかった」と返すよりも早く、オレリーはスイングドアを内側から押して外へと出ていった。
ドクの顔から目線を外したマルレーンが、口許を引き締めてオレリーを追った。




