午後の陽射しを遮る影
オレリーとマルレーンが南の道の端の伝道所を訪ねた日から数日――
フロンティア・レンジャーを便ったらどうか、というオレリーの提案に、カウボーイらの腰は重かった。
そもそも巡回判事が(判事は一人ではないし、全ての判事がそうではないが……)町の有力者と繋がっているわけで、いかにレンジャーがタウンシップの合議体から独立した存在であるとはいえ、果たして自分たちの〝言い分〟が正しく届くのだろうか、という懸念が拭えないのだろう。
その間、保安官のラーキンズも表立って何をするということもなく、さりとて、南へ向かう道の封鎖は続いたままだったので、南部の大都市〈サウスポート〉に出ようという人々の足は相変わらず止められたままだった。
〝渡り〟のことを「金さえ出せば何でもするもの」と理解している人が、ロータリの置かれた酒場の一画に、さっさと〝ならず者〟どもを始末してくれと訪ねてくるようになっている。
コミッショナーのグレンは、そういう客人に対し、〝カウボーイらの言い分について正しく裁定が下るまで、ロータリとしては中立であるべき〟との考え伝えて丁重に断るのだった。町長と判事の〝黒い関係〟については伏せたものの、〝渡り〟として〝筋の通った〟対応をしてくれている。
だが、このままカウボーイらがレンジャーを便らなければ、町長側に与する判事によって、決して正しいとは言えない裁定が下ってしまう……。
そうしてオレリーがやきもきとする中、事態が動く――。
その日もオレリーとエミールは、ロータリとして使われる酒場の一画――ロータリの名前の由来となった振り子時計の前の卓――で、コミッショナーのグレンの振舞ってくれる午後の紅茶を愉しんでいた。
グレンの淹れてくれる紅茶は蒸らし加減が絶妙だったし、なにより彼手製のビスケット(ここではプレーンスコーンのような焼き菓子)が絶品だった。あまりの美味しさについ手が止まらなくなりがちで、ルズベリーに入ってから、夕食の量を減らしているオレリーである。
すでに2つを平らげてしまっており、3つめに手を伸ばそうか割と真剣に悩んでいたオレリーは、相棒の目が〝どうせ手に取るんだろ〟と暗に語っているのに気づくと、むぅと口許を尖らせたが、結局、しっかりとそれに手を伸ばした。
外の辻が騒がしくなったのは、彼女が3つめのビスケットを手に取った、当にそのときだった。
怒号ともとれるどよめきを耳が拾い、外の様子を窺おうと窓へと遣った目が、窓枠の先に、午後の陽射しを遮る影を見た。
それが疾走するトリウマ(人を背に乗せられるほどの大きさを持つ鳥。乗用家畜で空を飛ぶ事は出来ないが凄まじい速さで地上を駆け抜けることができる)の影であることは、オレリーとエミールにはすぐに判った。反射的にふたりは席を蹴って身を屈める。
疾走する気配が酒場の壁の外を移動していく。辻に向いたスイングドアの先に差し掛かろうというとき、3発ほど銃声がした。
木製のドアに2つほど穴が開き、トリウマの気配は、辻の先の大路を、そのまま遠ざかっていった。




