レンジャー(駝乗警邏隊)
「ひどい話ですね!」
カウボーイらの話を聞き終えるや、マルレーンは目を吊り上げて誰にともなく言い募っていた。
「そんなこと、許されていいはずありません!」
昂った感情に、大きな胸の前で両の拳を握ってみせる。
一方のオレリーは、そんな彼女に同調することなく、〝冷静であれ〟と自身にも言い聞かせるような表情を崩さずに男たちを見返した。
「あなたたちの話が本当かどうか、わたしには確かめる術がないのだけれど…――」
両極端な〝女渡り〟それぞれの反応に、男たちの表情もさまざまだが、総じてオレリーの〝逆接の接続助詞〟には好意的でない表情が浮いている。オレリーは、心の中で自分を励まして続けた。
「――いまの話には十分に道理があると思う。だから、保安官も判事も信用できないのなら、もっと上位の裁定機関に話を持ち込んだらどうかしら」
そこで言葉を切る。それは話を先に進めるためのオレリーの〝誘い〟だ。
「上位、ってえと……?」
果たして、カウボーイらを代表してリーダーがオレリーの誘いに乗ってみせた。
「……それはやっぱり〝レンジャー〟だと思うの」
オレリーは、フロンティアで最も信頼される法執行機関の名を挙げた。
レンジャー(駝乗警邏隊)は、広大なフロンティアに点在するタウンが寄り集まって構成する〝タウンシップ〟にあって、それぞれの町の法権限の〝外側〟、より広域の治安維持を担う半独立組織である。
遥かな昔に海を渡って来た者らの末裔たる大陸の住人は、自主自立の精神を貴び、東の海の彼方に栄えていたという祖先の故郷にあった〝国家〟という概念を持たない。
ここフロンティアにおける最大の統治機構は、町が盟約によって結ばれるタウンシップなのだが、そこでも町を超える権限を持った中央機構は存在しない。建前上、盟主は「各加盟タウンそれぞれ」であり「各タウンの権利は平等」ということになっている。あらゆる議案は全会一致による承認・決定が原則で、多数決の制度は採用されていない。
時間は掛かるが、この世界では、構成員の自主性を重んじた意思決定が尊重される。
大陸のそういう意思決定機構のなかで、唯一の例外と言っていい権能を与えられた集団がレンジャーだった。
警邏中の緊急事態に即応する必要上、隊には独立した行動の自由が保障されており、それが故に、必要であればタウンシップの意思決定に反した行動を執ることもあった(ただし、事後にタウンシップによってその妥当性は評価される)。
町の保安官もタウンシップの巡回判事も信用できない今回のような事案こそ、当にレンジャーの独立性が必要とされる事態なのだと、そうオレリーは考えたのだ。
道理と正義とを信じる少女の生真面目な表情に、カウボーイらは心を動かされたようだったが、リーダーは即答を避けた。
ひとまず町に戻ったオレリーとマルレーンは、彼らの言い分をコミッショナーに報告し、私見を添えた。
町長と判事の関係に疑義がある以上、疑義が晴れるまでは、ロータリは中立であるべきだ、と。……コミッショナーは、それを了解した。




