ふたりの〝女渡り〟
まだ太陽が正中の位置に掛かるよりも前に、ふたりの〝女渡り〟は酒場を出て、カウボーイらの屯す南の道沿いの古い小さな伝道所跡へと向かった。
オレリーとマルレーン…――女ふたりだけで訪ねることにしたのは、最初から相手を刺激するようなことを避ける意図からだった。少なくとも〝ドク〟・アチュカルロが、その得物――イーストエンドM2873 大口径ライフル銃――の長銃身を晒して近づいていくよりは、ずっといいように思われた。
もっとも、エミールばかりはこれに反対で、言い出したラーキンズ保安官に険呑な視線を向けて抗議した。オレリーが彼を宥めて、町外れで待つように指示したのだった。
大フロンティアの乾燥した大地の上を砂塵が渡ってゆくなかを、ふたりは並んで歩いていた。
少しばかり流行遅れな青紫色の旅行ドレスを纏うオレリーは(……目もとの表情こそ少々きつめではあるが)一見して可憐な少女である。スカートの上に巻かれているガンベルトは、違和感すら感じさせている。
隣を歩くマルレーンは、すらりと長い手足をした長身の娘で、頭にのせた鍔の大きな麦藁帽から伸びた〝向日葵のような金髪〟が目を惹いた。表情豊かな顔に浮かべる〝向日葵のような〟笑顔もあって、ともすればお堅い表情になりがちなオレリーよりも若く見える。
流行の赤白ツートーンのボディ・コンシャスな旅行ドレス。フレアスカートの右側には大胆なスリットが入っていて、白い太腿と、細い腰のガンベルトから吊るされたホルスターが覗いているのだが、こちらもやはり〝凄腕〟のガンスリンガーには見えなかった。
そんな乙女ふたりが、伝道所跡までの道すがらに交わした会話はこんなものだった――。
「オレリー? ……サンドリーヌ? サンドラ?」
「ミス・ラングラン!」
まとわりつくように訊いてくるマルレーンに、オレリーは面倒そうに応じる。だがマルレーンはめげない。
「んー、かわいい顔に、そんな老け込んだ呼び名は似合わなーい」
長身を屈め、オレリーの横顔を覗き込むようにしてくる。
「…………」
「サンドリーヌも〝かっこかわいい〟けど、ちょっとお堅いかなー」 などと独りでぶつぶつと続け、挙句、「……うん、やっぱりオレリーがいいです」
と笑顔になって言ったものである。
「――…あなたの金髪の方が、よっぽど〝オレリー〟だけれどね」
人目を惹いて余りあるマルレーンの艶やかな金髪に、赤毛のオレリーが、ぶす、と返す。マルレーンは、手をぱたぱたとやって応えた。
「や、や…――そんなことない、ない。あなたは外面よりも内面が〝オレリー〟なの。うん、オレリー。これで決まりです」
オレリーは、もう何も言わなかった。
酒場の二階の部屋に訪ねてきた日以来、度々繰り返された本事案は、マルレーンの一方的な宣言で決着したようだった。
そうして歩いているうちにも、ふたりは南の道の端に建つ伝道所跡にやってきていた。
建物へと到る小路の入口には、ヴィンチェストライフルを手にした見張りが立っている。




