〝女渡り〟あらわる
大陸中西部の小さな町『ルズベリー』――
魔法蒸気の機関車が〈イーストエンド〉から〈ウェストエンド〉までを走る大陸横断鉄道の中間点〈ミッドポイント〉…――。
そこからさらに西へ、〝スチームコーチ〟でいくつもの駅を経ねば辿り着けないような、大フロンティアへの入口の町。
一日の大半を乾いた風が吹き渡る町の中心に建つ酒場の周辺には、黒い人だかりが出来ていた。
町の外れの牧場に住まう、ごくごく普通の牧童であるレキシー・ブレニスは、そんな人だかりに気を取られはしたが、先ずは曳いてきた牛の足を止めずに、目抜き通りを町の反対側まで急ぐことにした。
今日の昼の便のコーチが、少々毛色の変わった、二組目の〝渡り〟を乗せてきたことはもう知っている。
鉄道駅から遠く、滅多に余所者の出入りのないここ『ルズベリー』のような辺境では、〝渡り〟のもたらす他所の町の伝聞は、危険と隣り合わせの彼ら自身の日常語り――それは一種の冒険譚だ――とも相まって、もはや一種の娯楽とさえなっていた。
かく言うレキシーも、先日の一組目の毛色の変わった〝渡り〟が町に現れた折には、午後の仕事を放り出して彼女らに対して行われた聴取を目当てに酒場に詰めかけ、結果、若奧さまにこっぴどく叱られる羽目となった。
だから、先ずはともかく仕事を終えてしまわねばならない。酒場に足を向けるのはそれからだ。
まあしかし、こんな辺鄙な町に、女の――それも〝別嬪〟の…――〝渡り〟が、同じ週に二人も現れるなんて、滅多なことではないことだった。
町の中心の辻に向かって大ぶりなスイングドアを設えた酒場は、常日頃から情報交換の場だが、例えば今日のようなときには、半ば公的な集会場となる。
ホールから溢れた人々が、軒先にまで溢れていた。
彼らは〝渡り〟が町を移る際の慣例事である『聴取』の始まるのを待っているのだ。
さて、その酒場のホールでは、真ん中に置かれた椅子に、件の〝渡り〟であろう一組の男女が座っている。二人の容貌は至って真面なものだったが、むしろそれが衆目を集める理由でもあった。彼女らもまた、前の組の男女とはまた違った具合に、いっこうに〝渡り〟になど見えなかったから。……二人ともまだ子供と言ってよい年の頃であった。
少女の方――ペンデュラムクロック・ロータリ(※ルズベリーのロータリ。ロータリとは〝渡り〟を管理する在地の世話団体)のコミッショナーを正面に、町長、保安官、牧師といった地元の有力者が居並ぶ雛壇の前にして座る、少しばかり流行遅れの青紫色の旅行ドレスに身を包んだ赤毛の彼女は、気後れするふうもなく端然としていて、落ち着いた対応を見せている。
一方の、ギンガムチェックの上下(ジャケットとパンツ)にウエストコート(チョッキ)という、こざっぱりとした服装の男の方は、温和そうな顔立ちを緊張させ、居心地悪そうな表情で少女の横顔を見やることの多いところから、どうやら少女の方が格上の存在なのであろうと察せられた。




