3. 不憫な生き物「吹部男子」
さて、昨日は入学式や部活の初顔合わせとそれなりに充実していたが、今日の和也は少し憂鬱な気分で席につきながら、意味もなくTwitterを開いては閉じ、開いては閉じという何の生産性もない動作を繰り返していた。
確かにそれは仕方のない事ではある。
座生館高校は私立の中高一貫校。高校入学者のうちの7割は内部生で構成されており、もう既に内部生だけのコミュニティが出来上がっていた。外部生の多くはなかなかその輪の中に入れず、和也も漏れずその一人であった。元々自分から話しかけにいくのがあまり得意では無かった和也にとって、地獄の3年間が始まりそうな感覚を覚えていた。
そんな中、誰かがこちらを覗き込んできた。
「なあなあ、吹部の人やんなー?」
少し声は高めで、切れ長の目をした小太りの男が話しかけてきた。俺ほどじゃないがこいつも結構身長高いな。183cmといったところか。
「せやでー」
「僕も吹部入って昨日の歓迎会行ったんやけどさ、君含めて同学年の男子3人しかおらんぽくてさー。やっぱ吹部男子って肩身狭いやんか?やしできるだけ仲良くなっときたいなって思って!」
彼は大泉冬人とそう名乗った。
「おぉ〜まじか嬉しいわ。よろしくな〜」
ーーそう。吹奏楽部における男子部員問題。これは死活問題なのである。
他の部活から見れば、男女比2:8の吹奏楽部はさぞかし羨ましく見えるだろう。ほぼハーレムだ。だが現実はそんなに甘くはない。。。
一番はやはり女子と比べて体力があるからこその雑用だろう。特にコンクールや外本番、ホール練習の際の楽器運搬は男子が率先して動かなければいけない。特にコンクール時期のトラックの詰め込みは地獄も地獄。そういった力仕事をこなして頑張っている姿を見て、女子部員は心動かされ、、、、、、、、、、、ない。
なぜか吹部男子は絶望的にモテない。頑張った後に得られるのは、力仕事ができるという信頼感のみ。信頼が積み重なれば積み重なるほど、一流のパシリへと成長していく。
他にも数的不利で意見が言えなかったり、女子特有の派閥争いに巻き込まれたりもする。
吹部男子とは、不憫な生き物なのだ。
だからこそ結束しなくてはならない。
俺的にも吹部男子の友達ができるのは嬉しいし、クラスで孤立しなくて済みそうだ。
「にしてもお前、結構いいお腹してんなぁ」
そう言いながら大泉の横腹をつついた。
「ひゃんっ.......//」
..............................うん?
何かの聞き間違いかもしれない。そう信じて俺はもう一度彼の腹をつついてみた。
「んんっ・・・・・・・・・や、、、やめて・・・・・・ッ!!」
こいつ、、、、ダメなやつだ、、、、、!
吹部男子の肩身が狭い理由がほんの少しだけわかった気がする。