2. 花見と他者紹介
「ま、、、、、まあせっかく新入部員の子たちも来てくれたので、お花見でもしましょうか!!」
部長らしき人物はまるで現実逃避をするような、そんな空元気な声で呼びかけた。
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座生館高校にはコートヤード、まあ裏庭的なものがあり、そこには満開のしだれ桜が咲いている。
「は〜い、じゃあ新入生は好きなパートのところ行ってね〜〜〜〜〜〜」
俺が行くのは、そう。トランペットパートだ。
トランペットパートに集まった新入生は俺含めて2人。上級生は合計5人。その中で男子は俺一人。
ハーレムやないか!!!!
と羨ましがる声が運動部から聞こえてきそうだが、なんせ俺は生粋のアニオタ。中学3年間も吹奏楽部だったくせに女子耐性は全くのゼロだ。
「じゃあ人数も揃ったことなんで、始めましょうか〜」
どこか気の抜けた、ふわふわ〜っとした声がかかった。優しそうな人だな。
「自己紹介、、、普通にしてもおもんないから、他者紹介でもしよっか〜。じゃありえりー、私の紹介して〜」
「はーい!彼女はひかるちゃん!本名は里山ひかる!副部長だよ!君たち、絶対ひかるちゃんのこと優しそうって思ったやろ〜?残念!彼女怒ったらマジで怖いから!怒り狂うとかじゃないのよ。この世の全てを蔑むような冷酷な眼差しで静か〜にキレるんよ。私も何回あの目を向けられたことか、、、、、、ガクブル」
「そりゃあんたが怒らせるようなことするんが悪いんやわ〜」
ニコニコしてるが、和馬の経験上普段優しい人ほど怒った時の破壊力が凄まじいのはわかっていた。
この人は絶対に怒らせたらあかんやつや。
「ほなりえりーの紹介するわな。この子は棚橋梨江。パートリーダーやってるんやけど、意外と頼りないんよね〜〜」
「ひどくない!?!?!?!?」
「私この子とは小学校の頃からの付き合いなんやけど、まあ一言で表すならポンのコツやね」
「ひどくない!?!?!?!?」
「あと家がちょ〜〜〜〜〜〜〜金持ちのお嬢様なんよ。行き帰りは執事の車送迎やし、山の上に超大豪邸構えてて毎晩庶民の我々を見下ろしながらディナー嗜んでるんやわ。ほんま性格悪いやろ〜〜?」
「うそうそうそうそ山の上に家があること以外全部うそ!!!!!なんで何も知らん新入生の前でそんなこと言うん!!!!見放されてトランペットの新入部員居なくなったらどーすんのよ!!!!!」
「まあそんなこんなで3年生はこの2人で仲良くやってます〜〜〜〜」
「ねえなんでスルーすんの!!!!ねえ!ねえってば!!!!!」
まあ何とも中の良さそうな。初対面で身内ノリを見せられて若干寒さを感じながらも、和馬は一先ず雰囲気の良さそうな2人を見て安堵した。
「じゃあ次は2年生お願いしよっか〜〜〜」
「は、はいっ。えーっと彼女は坂上莉子。みんなりこりこって呼んでます。えっと、、、紹介、、、ポニーテールがかわいいです。たまにお願いしてポニーでビンタしてもらってます、、、、、、ヘッ」
なにそれ最高じゃないですかーーーー!!!!ポニーテールでビンタされるってそれ全オタク男子の夢じゃないっすか!!!!俺も今度お願いしてみよ
「情報むっちゃ少ないし、なんかそれ私Sみたいやん。まーええわ。えーっと、こっちにいるのはこやぎちゃんね。本名は大柳佳奈なんやけど、身長が150cm無いから大柳やなくてこやぎって呼んでるんよ。この子よう抜けてるから、ポップスで企画付きの時とかよう立つタイミング間違えてるわ。まあ身長ちっさいし間違えて立ってもあんまわからんのやけどね。」
「え、なにこれお互い傷えぐらなあかん決まりでもあるん??えっと、兄屋妹子ちゃん。あにゃちって呼んでる。アニメ大好きで、登下校の時は1人でニヤニヤしながら歩いてる。たまにデュフフって聞こえてくる。キモくてかわいい。」
「キモい、、、キモいって、、、、、、グフッ」
なんかこのあにゃちさんの気持ちすげえわかるわ。俺も普通に電車でアニメ見てニヤニヤしてることよくあるし。仲良くなれそうかもな。
「はいっ、そんなこんなで2,3年生の紹介でした〜!いっつもこんな感じでお互いに傷をつけ合い、その傷口に塩を塗りたくりながら生活してま〜す」
「はいじゃあお次は1年せ〜〜〜〜っても流石にまだお互いのことは知らんか。じゃあ1人ずつ自己紹介してって〜」
「はい!」
そう張り切って返事をしたのは、さっきのツインテールちゃんだ。心の中ではツインちゃんって呼ぼ。
「井ノ上二です!」
「いや本名かよ!!!!!!!!!!!!」
「??????」
「ゴホン、、、、すみません」
「ツインって名前なので、小学校の頃からずっとツインテールです!」
「そのままかよ!安直だな!!!!」
「??????」
「ほんっとすみません、、、、、」
「???、、、、わ、わたし、コンクール頑張りたくてこの部活入ったんですけど、どうなっちゃうんですかね...」
そうよな。不安よな。
微妙な空気が流れる。
「ん〜そこんとこは正直私らも戸惑ってて、部長が確認中としか言えんかな〜」
「そう....なんですか....」
「先生のことやから何か思惑はあるはずなんやろうけど、今回ばかりはさっぱりやね。」
また微妙な空気が流れる。
あの、俺まだ自己紹介してないんですけど、、、、
こんな空気で自己紹介なんてできないんですけど、、、、、
「あ、ごめんごめん!まだ君の自己紹介終わってへんかったね!それじゃあよろしく!」
「あ、はい、伊藤和也です。身長は188cmあります。」
パートメンバーがみんな口を開けて、お〜と言っている。
パート以外からも驚きの視線が飛んできているのもなんとなく背中で感じている。
これこれ!なんとも言えんけどこの感じめちゃくちゃ誇らしいんよな〜
「僕もすごいアニメとか声優さんとか好きで、よくライブ行ったりしてます!」
兄屋先輩の目が獲物に照準を合わせたチーターのようにギラリと輝いた。
「どどどどどどの声優さん好き!?!?!?!?!?!?!?!?」
距離の詰め方がホンモノのオタクだこの人。
でも悪い気はしない。同じニオイがする。
「そうですねえ、、、晴宮海さんとかぴえりーとか好きですね〜」
「イ....イイヨネ.....ワタシは藤田トモハズさんと高村雄吉さんが好き......デュフッ」
「ワ.....イイデスネ......」
「ウンウン........」
「つ、、、、、通じ合ってる!!!!しかもあにゃちがあんなに活き活きと喋ってんの初めて見たわ、、、」
確かにオタクの知り合いって意外と見つかりにくいからなぁ
「はい!みんな紹介ありがと!1年生もこれからよろしくね!、、、ということで、トランペットパート毎年恒例のフルーツポンチをやりまーーーす!」
「やっぱり今年もやるんですね、、、」
しっかり者のりこ先輩が内心少し呆れたように口にこぼす。
「これやらんと一年始まらんからね〜〜、はい、りえりー準備お願い!」
「いや丸投げかい!」
そんなこんなでボウルにフルーツ缶やアイスが放り込まれていく。
「じゃあツインと和也!メントス入れちゃってーーー!」
「あの、これボウル小さくないですk.....」
こやぎ先輩が言い終わる前にはもうメントスの入ったサイダーは噴射していた。
「あああああああああああああこぼれたああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
こうして俺の、座生館高校吹奏楽部での3年間が、不安と少しの期待感を胸に始まりの音を告げたのであった。