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10. レコーディング

フルート、クラリネット、サックスと木管楽器から順番に一人ずつ呼ばれているが、終わってからはそれぞれのP練部屋に移動しているようで、音楽室に固められている俺たちは何も知らされないまま、そわそわしている。

次、次と呼ばれるスピードもかなり早く、一人当たり3分もかかっていなさそうだ。


とはいえ流石に全体の人数もかなり多いので、それなりに時間はかかりそうではある。


木管楽器が全員終わり、ユーフォニアム、ホルンと呼ばれ、ついにトランペットの番が来た。はじめにりえりー先輩が呼ばれ、その次に俺の番が来た。


レッスン室に入ると、そこにはコーチの前に機材が設置されていた。マイク、パソコン、ヘッドフォン、、、あのマイクとパソコンを繋いでいる四角い機材はなんだ?


「今からSing Sing Singの練習番号AからBまで録音します。そのヘッドフォンつけてもらったら打ち込みのドラムとクリックが聴こえるので、それに合わせて演奏してください。では流しますね。」


心の準備も万全ではないままに、有無を言うこともできないままに演奏を促される。


演奏が終わった。10秒程度のフレーズだったから、特に間違えることもなかった。

それなりに上手く吹けた、、、、はず。


「はい、ありがとうございます。ではパート練の部屋に移動してください。」

「ありがとうございました。」


心が落ち着く間もなくレッスン室を追い出され、P練部屋へと向かう。


「おー早いねーお疲れー!」


いつも元気なりえりー先輩、かわいい。


「お疲れ様ですー。先輩どんな感じでした??」


「私はねー!なんか褒められたよ!すごい良い音してるって!ずっとあのコーチ無愛想だなーって思ってたけど、意外と良い人なのかなぁ?」


嬉しさが溢れているのが隠しきれない様子だ。かわいい。


ひかる先輩も終わって帰ってきた。


「おつかれー。なんかコーチの雰囲気変わった?やけに褒めてくれるんやけど。」

「わたしも褒められた!」

「え俺なんも言われませんでした、、、」


まさか自分が下手すぎたから呆れられたのか、、、??いやでも緊張しすぎてコーチの顔ちゃんと見れてなかったからな、、、。自信満々に上手くできたはずとか思って下手やったら超ダサいからな、、。


ツインが部屋に入ってきた。


「なんかコーチの雰囲気変わりましたよね??」

「おまえも褒められたのか??????」

「えなに近い食い気味キモいごめんむり離れて」

「なにもそこまで言わんでも、、、」

あまりの言われようにさすがに落ち込む。横でりえりー先輩は声を上げて大爆笑。ひかる先輩もニヤニヤしながらこちらを見ている。


「....別に褒められてはないけど、なんかコーチがやけに優しくなった感じはしたかな。」


ーー後から入ってきた2年生の先輩たちも特に褒められた訳ではないが、何かコーチの雰囲気が変化したのを感じ取ったようだ。なら単に俺が緊張して気づかなかっただけか。あーよかった。


ーーそうこう話しているうちに他のパートも録音が終わったようで、音楽室に集まるようにと連絡が来た。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「はい、みなさんご協力ありがとうございました。では、皆さんに演奏してもらい、全員分合わせたものを今から聴いてもらおうと思います。特に大きな編集はせず、演奏時にかけたコンプレッサーとルームリバーブだけ施してあります。」


演奏が流れる。あまりのクオリティに思わず部員一同、息を呑んだ。


「....これはひどい」


誰かがぼそっと呟いた。確かにひどい。ひどすぎる。辛うじて曲の原型は留めてはいるが、聴くに耐えない演奏であることに違いはない。誰が拍子の頭からずれてて、どの楽器の音程やピッチがずれていたのか、全く判別できない程に崩れていた。


「そうです。これが現実です。まあ実際の現場ではセクションごとに録音するのでもっと演奏はしやすいとは思いますが、今回は皆さんに主観的な基準というのは意外にも信用ならないのだということを体感してもらいたかったんです。特にアタックですね。これを吹奏楽やオーケストラの基準で演奏するだけでポップスは一気にダサくなります。他にも音ムラや音色そのもの、リズムやピッチ、グルーヴ感やマイク乗りなど言い始めたらキリがないですが、主観的に上手くできたと思っていても、このようにレコーディングをして客観的に聴いてみると意外と粗だらけなことに気付けるかと思います。

今録音機材5セットの購入を手配しているので、届き次第皆さんが自由に録音練習をできるようになります。録音に関する細かいセッティングなんかはアルトサックス一年生の山下君が担当してくれます。彼自身録音経験が豊富で今回の録音も一番クオリティが高かったので。

自分自身の演奏を客観視し批判することは上達におけるかなりの近道になります。そしてその経験はポップスだけでなくもちろんクラシックにも応用ができます。それでは、また皆さんの演奏が聴けることを楽しみにしています。」


そう言い残し、コーチは音楽室を去って行った。

ーーてか機材って結構高いんじゃないのか?私立の財力すげえ〜


「えっと、今紹介に預かりました、アルトの山下です。僕自身趣味で2年くらいレコーディングやっててSNSに投稿しているので、皆さんのお役に立てればと思っています。今回の録音データも個別にドロップボックスにアップしておくので、ご自身の演奏を絶対に一度聴いておいてください。機材の使い方についてはモノが到着してからお伝えしようと思います。」


ーーあいつが唯一コンタクトが取れなかった残りの男子か。帰りのミーティング終わったら話に行ってみよう。


そんな希望も虚しく、山下は目を離した隙にいなくなっていた。帰宅RTAかよ。

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