第五十五話 目的地は
二月中に修正終了する予定でしたがもっとかかりそうなので、全部終わってから一気に内容を張り替えようと思います。
その間は問題なく本編読めると思いますので気長に待っていて下さると幸いです。
「だ、断線……」
「見事な位にねー。ちょっと変なのはあるけど…一本も体表まで繋がってないや。転移してきた日本人だからかな?」
「なるほど…。だから血を介さないと魔力を外に放出できないのだね。逆に言えば、流血でもしなければ体内に貯め込みっぱなし、と言う訳だ」
ふんふん、と頷きながらフィデスも言った。
「一本だけ、契約印と繋がるためだけの経路があるけど、これはテオ君が契約時に無理やり繋げたものだろうねぇ。これはテオ君が存在を維持するための魔力供給に使われているから、精霊魔術には使えないね。使うと破断してテオ君が消滅する」
『ておんっ!?』
テオが消滅するって…そんなの絶対使えませんね!
テオも青い顔をして「やるなよ!?絶対にやるなよ!?」と言っているかのようだ。言葉がわからなくてもそれぐらいはわかる。
ベンも後ろで同じような表情をしている。
「やらないって。やらないから!」
だからその目やめて!
「そうか、気になってはいたが、契約印があってもテオ君の言葉がわからないのはそれが原因だな。本来契約印が増えれば増えるほど、契約者との繋がりは強まって意思疎通ができるようになったり力を借りたりできるようになるんだが、繋げられる経路が無いんで契約印が増えても繋がりの強さはそのままだったんだ」
なる、ほど?
経路が問題なく繋げられていれば、今頃はテオともおしゃべりができていたのだろうか。
「イシルリルへ行けば専門家に会えると言っていたが、その専門家はその辺りも解決してくれそうかね?」
「まぁ、似たような事例を解決してるのは見たことある。実質、ここまで来るとユート君の祝福の正体はわかったようなもんだがな。それでもイシルリルへ行くかは君らがどうしたいか次第だ」
「そのモノクルで僕の魔力も見えたんですか?」
その質問にはエスタは首を振った。
「いんや。これで見えるのはざっくりとした魔力経路だけだ。アタシら星種…亜人が魔力経路に詰まりを起こしたりとか、病気を起こした時に検査するための、医療器具みたいなもんだな」
亜人は人間より魔力に親和性が高い分、人間には起こらない特有の病気を起こすことがあるそうだ。
それを見るための器具であって、僕の貯めてる魔力とやらが見えたり、どんな状態なのかを見ることはできないらしい。
状況から僕に魔力があるっぽいことは確かになってきたけど、詳しいことはわからないままだね…。
「私は調べておくべきだと思うがね。魔力を溜め込む祝福というのは初めて聞くし、溜め込み過ぎることで何が起きるかわからないのだから。己の祝福の暴走で命を落とすことも少なくはないのだ」
「オレは森人の国に行くのが不安だな。まあ、行くってんならついて行くが…あいつらは特に余所者に敏感な種族だぞ?」
むーん、悩ましいところだ。
祝福については深く知りたいけれど、森人に対する意見は三分の二が否定的だ。
日本人の僕としても、傲慢系エルフが来るか貞淑系エルフが来るか予想がつかないし…。
「そういえば、エスタさんは森人に会ったことはあるんですよね?」
「…まぁね。好きな奴もいれば、嫌いな奴だっている。良い奴、悪い奴もな。人と同じように、森人にも色々いるから」
「どっちかと言うと?」
「嫌いなのが多いかな」
「そうかぁ…」
「ま、そこら辺は好みによるだろ。実際、好んで彼らの地に住む人族だっているし。少なくとも、アタシが紹介状を書けば、無下に扱われることはないはずだけど」
掴みどころのない感想だなぁ。
未知の国。そう言われると、不安と興味が半々にある。
「僕は、行ってみたい。と、思う」
メリットとデメリット。秤は同じくらいだった。
もしかすると僕にも精霊魔術が使えるかもしれない、という期待が、最後に背中を押した。
「ぬか喜びになるかもしれないんだぞ?」
「それはそれで仕方ないよ。そのときはイシルリルの観光ってことで」
期待は持ちすぎると裏切られた時辛いからね。
それに初めての異世界で外国観光なのだ。それだけでも魅力は十分ある、と思っておこう。
「よし、決まりだ! 実に楽しみではないか!」
「……お前、もしかして幼馴染の子っての、探そうとしてる?」
「おや、バレてしまったか。だがまぁ、旅のついでだよ、ついで」
あー、道理でフィデスはイシルリルに行くのを推してたわけだ。
幼少期に遊んでたことのある森人の子。
……こっちの世界のエルフって何年ぐらい生きるんだろう?
フィデスが子供の頃って言っても10年くらい前ってことだろうから、この世界のエルフの寿命いかんによっては当時の見掛けのままっていうのも全然あり得る。
それなら、見つけるのも簡単そうだな。
話している間に、どうやらギルドマスターが戻って来たようだった。
工房馬車の扉がノックされ、開けるとギルドマスターが革袋を持って立っていた。
「待たせたな。これが、今回の報酬だ。今この町で用意できるのがこれだけだから、残りはパーティの口座に送金しておこう」
「わかった」
ベンが代表して報酬を受け取った。
ギルドマスターはエスタの隣に浮いているナルロスを見て、一瞬眉を顰めた。
……本当に、忌避されているんだなぁ。
これじゃ、テオがいるのもバレたらどんな顔されるかわかったものじゃないな。
そう考えると、他の冒険者に正体がバレる前に引き離してくれたギルドマスターは、良識がある方なのかもしれない。
まだこんな扱いをされることに納得はしてないけど、なんとなく理解はできた。
「それじゃ、フェリアちゃんのこともよろしく頼むよ」
「ああ。しばらく療養したら保護施設へ送ることになるだろう」
ギルドマスターは報酬を渡すと一礼だけして帰って行った。
それを見送って、エスタも馬車を出す。
寒空の下の夜道を工房馬車の進む音だけが響く。
「むー」
「まだむくれてんのか?」
「いや……皆が亜人や精霊を嫌うことに理由はあって、直観的に忌避しちゃうっていうのはわかっているんだけど。僕には、その感覚がわからないから……」
「真面目だなぁ、ユート君は」
もやもやする頭を抱えていたら呆れられてしまった。
「人族同士でもそういうことはあるもんだろ。どうにかしよう、と思って変えられるもんでもないし、受け入れよう、と思って受け入れられるもんでもない。ただそこに、そういう関係がある、と理解して離れるしかないんだよ」
「そういうもんですかねぇ」
変えようとするのでも、受け入れるわけでもない。
ただ理解して離れる、か。
余所者の僕が偉そうなことを言える立場でもないし、そう線引きして見ているしかないのかな。
「そういう常識になっているもんを変えようとするなら、人生を掛けることになるぞ。変えようとするならその覚悟をするしかないな」
「それもなんか…ちょっと違う気がしますね」
亜人差別、精霊差別を無くすために立ち上がれ! と言われると、それこそ僕の役目ではない気がする。
国と宗教の問題だし、当事者たち自身が、変える必要性を感じていないようにも見える。
何より僕は亜人や精霊の知り合いが少なさすぎるし。実態を知らないまま声を上げるのは違うよね。
「だけど、知ろうとするのは良いことだ。スぺキアの人族は知らないことは知らないままにしたがるからな」
「そんなことないと思うけどな…」
「時々、こういった突飛な人物が現れることもあるものさ」
「オレのこと言ってる? 否定はしないけど、フィデスも他人のこと言えないからな?」
精霊好きと、森人好きね。
そう聞くとやっぱり僕の仲間は変な人だらけなんだなぁ。
考えに柔軟性がある、と考えるととてもありがたいのだけれど。
そうして僕らは笑い合いながら道を進んだ。
ファスキナー領まであと少し。
二週間ほどの道のりが、とても長かったように思える。
それがようやく一区切りつくのだと思うと、ワクワクに似た、急くような気持が湧き上がるのだった。




