第五十二話 包囲網
新年明けました。今年も一年拙作をよろしくお願いします。
投稿数も50を超えた今日この頃、話が伸びてくれば粗も目立つもので、近々既存の話を工事しようと考えております。
話を削ったり入れ替えたり膨らませたり。余分だと思われる設定なども増えたり減ったりするかもしれません。変更箇所は後々まとめて記載させていただこうかと思います。
工期は1~2月中に終了することを予定しております。
週一のペースは守れなくなるかもしれませんが、工事が終わればまた元のペースに戻せるようにしていきますので、ご容赦のほど、今後ともよろしくお願いします。
「えぇ、マジで言ってんのお前?」
ベンからは否定的なご意見でした。
買い物を終えて馬車に戻って来たベンに事情を説明すると、思い切り顔を顰められた。
フェリアはそのまま診療所で預かってもらっている。目が覚めたら冒険者ギルドで保護する形になるだろう。
捕らえていた野盗たちはギルドに引き取ってもらって尋問中だけど、まだ有用な情報は引き出せていない。
「人質が何人かもわからない、敵の装備も規模も不明、アジトの位置もあやふやなんだぞ?」
そうですよね…フィデスの自信に押されて納得しかけてたけど、きちんと考えてみれば絶望的なのがわかる。
ぱっと思いつきで敵地に飛び込んで活躍できるのは英雄の類だ。
テオという切り札はいても、僕らは全然一般人なのである。
「勘違いしないでくれたまえ。私たちがするのはあくまで人質の救出だ。アジトの壊滅が目的ではない」
「はぁ…これだからお貴族様は!」
ベンが頭を抱えた。
いやでも、珍しいな。庶民派なフィデスがそんなこと言われるの。
でも僕もイマイチわかってない。人質を助けるのが悪いことなの?
「壊滅させなきゃ、報復が来るだろうがよ」
「悪党は襲われれば尻尾を巻いて逃げるものではないか?」
眉を怒らせてベンが言うも、僕としても「え、そんな一銭にもならないことをしに来るの?」って感じがする。
「するんだよ。生きてりゃ儲けもん、の考えで逃げてくやつも多いけどな、大規模に摘発されるならともかく、人質を掻っ攫われたくらいなら逆上して襲い掛かってくる」
「町を襲うなど、後に国から派兵されて逃げることもできなくなるだろうに、するのかね?」
「”祝福狩り”は町のチンピラや元囚人を纏めて作られたような犯罪者組織だぞ、そんな先のことまで考えられるか。面子を大事にしてるんだよ」
以前、実際に地元の警備隊が中途半端に”祝福狩り”に手を出した結果、報復で小さな村が焼き討ちに遭ったことがあるという。
道理でチンピラを集めた”祝福狩り”が今までスぺキア中で暗躍できたわけだよ。
規模の小さい都市ではきちんと叩き潰せるほどの人員が確保できないから、殆ど野放しになってたのね。
想像する限り、多分”祝福狩り”の連中を纏めている「祝福者を集めさせている統率者」はいそうだけど、それ以外は不良者の集まりなんだよなぁ。
スぺキアは元犯罪者が相当数うろついてる分、どこでも人員補充できるし、いくらでも切り捨てられる。
集められた”祝福狩り”の人員は、徒党を組んで力を持った気になる。
地域に根差さない暴力団みたいなものだ。半端に傷つけられると逆上するのは、シマを荒らされたのと同じ気分なんだろう。
「厄介なことだ…。では、どうするね?」
「テオ君に一発、ぷちっといってもらえるなら行ってもいいんだが…」
『…んお~』
「嫌っぽいね」
テオはジト目でフードの奥に引っ込んでしまった。
この間魔獣狩りを手伝ってもらったばかりだしねぇ。テオに負担がかかるのはわかっていることだから、僕としてもあんまり賛成できないかな。
さて、そうなるとどうしようか…。
「……提案がある」
沈黙の降りる中で、手を挙げたのはエスタだった。
エスタは僕の顔を見た。なんですか?
「ユート君のあれを利用しよう」
「いや危ねぇだろ。攫われてる人たちもいるんだぞ」
びしっ、とベンから突っ込みが入った。
たしかに。魔獣を呼んだら僕らも”祝福狩り”も無差別に襲われるだろうし、攫われた祝福者たちも襲われてしまうだろう。
文字石を使う方法もあるけれど、あれも大爆発するから無差別攻撃と同じだ。
「そこはアタシに考えがある。そのために少し時間を貰いたい。大丈夫、その案が失敗しても救出には代替案があるから」
「そこまで言うなら…試すくらいならいいか? 無理そうならオレらは出発するぞ。そもそも、”祝福狩り”はこの町の問題だ」
大丈夫なのだろうか?
エスタは詳細をまだ話さなかったが、とりあえず僕らはエスタの提案に乗ることにした。
そしてエスタの考えを見せてもらうことで、改めてこの作戦で行こうと思ったのである。
日の暮れる直前。僕らは森の中に居た。
フェリアを保護したところから、もう少し奥へと進んだ場所だ。
この先のどこかに”祝福狩り”のアジトがあると思われる。
冒険者ギルドに協力してもらって他の冒険者パーティも集めてある。Eランクだけど。
冒険者ギルドで保管されていた地図を借りて、大まかな地形からアジトの場所の当たりはつけた。
そこを囲うように集まったメンバーで包囲網を作り、徐々に縮めていく形になる。
ベン、フィデス、ムト、バクシン号、エスタ、僕で主要なルートを六方向潰し、残りのルートを他の冒険者に索敵してもらう。
バクシン号と工房馬車は、魔力を充填すれば盗賊相手など訳ないらしい。自動で近付いてくる知らない人物を攻撃することもできるそうだ。……ここだけテクノロジーやばくない?
「その代わり燃費を食うんだよ。だからユート君の血を使う」
「…うん、まあ、いいんだけど。なんか、複雑なものがありますね」
まだ自分に祝福があるということに慣れていないので、血を流すのがただ単にスプラッター映像としてしか認識できない僕です。
「いやしかし、面倒ごとが次から次へと、忙しいもんだなご主人。それも祝福のせいなのか?」
呆れたようにムトが言う。
そうだねぇ、フェリアを置いたら出発する予定だったのに、また変なのと戦う羽目になっちゃったよ。
「でも僕、昔っから不運だったから。こっちの世界に来て不運の大半が”魔獣に襲われる”になったけどね」
「げ、これが昔から?」
驚かれてしまった。
僕、自覚はあんまないんだけど、日本に居た頃から何かと不運みたいなんだよね。
友達に変だと言われたものといえば、缶蹴りで遊ぶと缶はカラスに持ち去られる、縄跳びは新品でも切れる、本は大体落丁している、よく信号無視の車が飛び出してくる、とか。数え上げればきりがない。
これらは日常のあるあるを話していたら、どうも皆にはあるあるじゃないぞ?ってなった話だ。
魔獣と比べると地味なもんだけど。
「よ、よっぽど星の巡りが悪いんだなぁ」
「はは、前に占い師に驚かれたことがあるよ。「なんでこれで生きてるんだ?」って」
『ておておん』
「流れ星も、不吉の象徴なんだっけ?全然そんなことないけどね」
『ておっ』
結果的に見れば、僕は生きてるし、仲間にも恵まれたし、危険は多くても幸せだ。
今回だって、厄介ごとに巻き込まれたように思うけど、見方を変えればフェリアたち祝福狩りの被害者を救うのに間に合ったとも言える。
幸運にも、手を伸ばせば助けられるところに僕らは居るのだ。
「本当にこの人数で大丈夫なのか?」
意識を森の中へ戻し、装備を整える僕らを見て町の冒険者ギルドマスターが不安そうな声を上げた。
禿げ頭と逆に口ひげを立派に蓄えた、初老のギルドマスターだ。
元々はBランクの冒険者だそうだが引退して長く、覇気は大分失われている。
「不安が勝るなら、あんたの権限で取り下げな。代わりにあんたの命令で捕まっている人々は見殺しになる。ま、アタシらが失敗して報復されても、アタシらに出撃を許したあんたの責任になるけどな。それが職を得て責任を持つってことだから、諦めな」
「そ、そりゃ、そうかもしれないけどよぉ…」
「勝てばあんたは英雄の一人だ。やる気出しな!」
エスタに言われてギルドマスターが納得したようなしてないような変な顔になる。
少女にしか見えないエスタにそんなことを言われれば、まあ、そんな顔にもなるだろう。
バクシン号と馬車の動力源には僕の血を掛けてある。
それなりの出血をしたので僕の手は包帯でぐるぐるだ。ちなみにキノコで火傷した方の手だ。
バクシン号と馬車の砲台ががしゃんぷしゅんと興奮するような音を立てる傍ら、テオが大変ご不満そうな顔をしていた。
……バクシン号と砲台が僕の血で動くってことは、本当に僕の血には魔力が豊富に含まれているらしい。
魔獣やスライムには単に好みの臭いかなんかだと思っていたので、こうして実用するとなんだか変な気分だ。
現在の時刻は日も暮れかけた夕方。
フェリアと出会ってから、まだ半日も経ってない。
叩くなら一秒でも早く。そう急かすエスタの要望で、その日中の出発になったのだ。
もうすぐ篝火の必要な時刻になってきていて、明かりのついている馬車から離れると途端に誰が誰だかわからないほど暗くなる。
ギルドマスターが引き連れてきたEランクの冒険者たちは、暗い森を見てそわそわと不安そうにしていた。
Eランク、ということは駆け出しも駆け出しだ。僕もDランクに上がっているとはいえ登録して数日なので、冒険者歴はそう変わらないけど。
駆け出し冒険者が夜の森に入ることはまずない。危険だからだ。
それでも今回は作戦に協力してくれるという。町の平和に貢献したいとのことだ。
「お、俺ら、こんな現場に呼ばれるの初めてっす…」
「大丈夫、君らはオレたちの取りこぼしが近くに来たら、松明や大声でオレらに知らせてくれればいい。最悪、隠れてやり過ごしたっていいんだ」
「ベンさんは、Bランクなんですよね? こ、怖くないんですか?」
「怖いさ。魔獣相手だって、人間相手だって、ね。でも、仕事だからやる。それだけだよ」
「か、かっこいい…」
流石、ベンは冒険者同士で交流するのも慣れているのか、後輩からの尊敬をいいように集めている。
僕とフィデスは先輩風吹かすのもなんか違う気がしたので、黙々と準備を進めていた。
「この獣人は、あなたの奴隷なんですよね? 強そうですね」
「うん、ムトは強いよ。仲良くしてくれると嬉しい」
「……そいつぁ無理な話だ」
ムトは不機嫌そうに鼻を鳴らした。またあの、臭いってやつだろうか。
いい加減慣れてくれないものか。
「こいつは慣れるもんじゃぁ無いぜ、ご主人。なんたって大昔からスぺキア人に脈々と刻まれている異臭だからな」
遺伝子的なやつかしら。パクチーが嫌いな人って遺伝子からしてパクチーの臭いが苦手な体になってるって言うよね。
「奴隷の契約の一つに勝手な攻撃の禁止が刻まれているから暴力を振るわずに済んでいるが、それが無かったら今頃ここは血の海さ」
「そんなに」
犬の鼻を持たない僕にはさっぱりわからないけど、相当臭いんだなぁ。
やっぱりスぺキアの外に出たらそこで解放してあげるべきかもしれない。
冒険者は引きつった顔をすると、後退りするように去って行った。ごめんね。
「フェリアが逃げてきたのは、あちらだったかね?」
「そうだ。ここから先は土地勘のあるギルドマスターに案内をお願いしたい」
「わかった」
フェリアの逃げてきた方向から、拠点の大体の位置に予想を着けていく。
可能な限り近くまで工房馬車を牽いて行き、馬車とバクシン号を切り離す。
そこを起点に長い直線に散開し、漁の網を閉じるように回り込みながら段々とお互いの距離を縮めていく。
そうこうしている間に日は完全に暮れ、夜の帳が降りていた。
……馬車から離れたせいで、周囲は真っ暗だ。
各々、手元の明かりのために明かり石と呼ばれるうっすら光る不思議な石を貰っているけれど、本当に手元の輪郭をぼんやりと掴むくらいしかできない。
その明かりですら”祝福狩り”に見られては厄介なので、なるべく茂みより高い位置に上げてはならないと言いつけられていた。
自分の位置もわからなくなりそうだ。
並び順としては、中央にベン、左手をバクシン号、エスタ、左端にフィデス。右手を僕、右端にムト。
それぞれの間にEランク冒険者を二人づつ挟んでいる形だ。
時折、位置確認用に明かり石を上に上げる。拠点があるだろう方向は手で覆って、だ。
そのおかげでまだ迷子にはならずに済んでいる。
そうしてしばらく拠点を探していると、中央を担当しているベンから合図があった。
ちか、ちか、と真っ暗な森の中で明かり石の明かりが点滅する。
拠点らしいものを見つけたのだ。
ベンはそのままそこで待機。
僕らはベンの位置を参考に、拠点があると思われるところを円形に取り囲んでいく。
どこが拠点だろうかと目を凝らして進んでいくと、木々が少し途切れて夜空が見えてきた。
星の光を遮るように、木ではない、建物のようなシルエットがぼんやりと見える。
……あれが拠点かな?
よく見てみると、時折蝋燭の明かりらしいぼんやりとした明かりが、窓からちらちらと見える。
人がいるのは確かなようだ。
僕も明かり石を上げて合図を送った。
待機している間にじっと建物を見ていると、なんとなくそれが廃教会のようだということが分かった。
時々、ちらちらと松明のような明かりが中をちらついている。”祝福狩り”の持つ明かりだろうか。
しばらくして最後の合図が光る。
……よし。ここからが僕の出番だ。
僕は懐から秘密兵器を取り出す。
革紐を編んで作った投石紐だ。ベンに作ってもらったものである。
それからもう一つ。暗褐色に浮かびあがる見たことも無い文字列……文字石だ。
本来なら爆発を起こす危険なものだが……。
(大丈夫……な、はず!)
僕はそれに、手の包帯を解いて血を塗りつけると、投石紐を使って勢いよく放り投げた。
放物線を描いて飛んだそれは、建物の中へ転がり込んでいく。
そして次の瞬間、眩いばかりの光が森の中を駆け抜けた。




