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第四十三話 転生者

てんせいしゃ。転生者?

その言葉を飲み込むのに数秒かかった。


「転生者ーー!?」

「驚きたいのはこっちだ」

「いてっ」


スネ蹴られた…。

っていうか転生って。この世界そういう概念あるの!?


「アタシは元日本人で現半鉱人(ハーフドワーフ)の、エスタだ。あんたは?」

「わぁ、日本語だ!久しぶりに聞いた!……っと、僕は、日本から召喚されて来ました。望月結斗です」

「ユート君か、よろしくな」


握手の文化!

こっちの世界では握手って一般的じゃなくて、お辞儀かハグが基本だからこれも久しぶりだ。


「アタシはこっちの世界で暮らしてもう60年になる」

「60!?」


少女だとばかり!


鉱人(ドワーフ)だから人間の60歳とは違うぞ。それなりにまだ若いんだからな」

「し、失礼しました。………ムトも実は凄い年上?」

「俺は15歳だが?」

「年下っ!!僕、二十歳(はたち)…」

「20っ……!?そ、そんな中年に見えないぞ…?」


ムトはしっかりしてるから年上だと思ってた…。年下だった…。

でも獣人(狼型)の平均寿命は35年ほどらしいので、ムトは人間年齢で言うと30代くらいになるか。

精神年齢的には、年上ってことで…。


というか、日本語でやり取りするの久しぶりで超楽しい。

一方ムトは突然知らない言語で喋り始めた僕らを不可思議なものを見るような顔で見ている。

急に少女……エスタが警戒を解いたのも腑に落ちないようだ。

同郷だ、って言ったら更に混乱させそうだからあとで何とか説明しよう。


エスタは日本で普通の人間だったそうだが、交通事故に遭って気が付いたらこの世界に生まれ変わってたそうだ。

転生トラックかな。


「転生って、よくあることなんですか?」

「いや、よくあるわけではないな。数十年から数百年に一人って感じじゃないか?」


顎をさすりながらエスタが言った。それが多いのか少ないのかわからないな。


「アタシは大陸中を渡り歩いているんだが、知り合いに二人、転生者がいる。二人とも日本人だ」

「本当ですか!」


それは凄い。少なくとも三人、僕らとはルーツの違う日本人がこの世界にいるのだ。

その人たちは人間なんだろうか?それともエスタのように異種族なのだろうか?

どんな暮らしをしているのだろう?

機会があれば、是非とも会ってみたい。


「で、あんた…ユート君は、転生したわけじゃない、と?」

「はい。僕はスぺキアの勇者召喚で召喚された勇者の一人です」

「勇者、ねぇ」

「あ、そうは見えないって言うんでしょ。そうなんです、僕なんの能力もないんです」


へへ、と頭を掻くとじとりとした目で見られた。


「いやぁ、本来はなんか凄い祝福を授かってくるみたいなんですけどね?僕はなんか、魔獣を引き寄せる呪いを授かっちゃったみたいで…」

「はぁ?なんだよそれ。っていうか、召喚された勇者なら、国が囲ってるはずだろ?なんでそんなんがこんな辺鄙な村でうろうろしてるんだ?」


かくかくしかじか色々ありましてですね…。

これまでの経緯を話すと呆れられてしまった。


「苦労してんだな、あんた…」

「それほどでも」

『ておお』


やれやれ、という感じでテオも頭を振っている。


「………で、その子のことなんだが」

「あ、テオのことですか?なんか空から降って来たんですよね」

「空から……はぁ、理解不能だがちょっとそこは置いておこう。それで、テオ君はどうやって()()してるんだ?」

「維持?」

「食事と言い換えてもいい」

「ああ、僕の血ですよ」

「………っすーー」


エスタが額を押さえて天を仰いだ。


「………この子が特殊なのか?あぁ…飼い主に聞いてもわからん。ちょっと待っててくれ、今()()()()()()奴を連れてくるから」

「? はぁ」


誰のことだろう?

エスタは工房の中に入っていくと、またすぐに出てきた。

しかしその手にはランタンを持っている。


「どっか行くんですか?」


夜になって路地は暗い。どこかに出かけるのだろうかと思ったが、エスタはランタンを僕の目線まで掲げて見せた。

何の変哲もないランタンに見える……と、ランタンの火が、不思議な揺らめき方をした。

ぼぼう、と不意に勢いよく燃え上がり、火の形がグネグネと変わっていく。

人型に見えるシルエットに変わった火は僕を向くと、ぺこりとお辞儀した。

か、かわいい。


『――――!』


そしてさっきの、鈴の音のような音。

どうやら目の前の、手のひらサイズの火の人形さんから出ている音のようだ。


『ておっ』


ひょこり、と僕の肩に乗り出したテオが手を挙げて挨拶する。

火の人形もにこりと笑んで手を挙げた。


「アタシの旅に同行している、ナルロスだ。見てわかるだろうけど、炎の精霊様だ」

「精霊!」


テオ以外の精霊、初めて見た!


「で、ナルロス。テオ君との通訳を頼みたいんだが、いいか?」

『――――♪』


火の精霊、ナルロスが笑顔で頷く。大丈夫なようだ。


「じゃあ、まず。アタシは精霊の食事としてこれを持ち歩いている」


エスタはポケットから何かを取り出した。

それを見たとき、その美しさに思わず息を飲む。

宝石、だろうか。透き通る透明度の中に、様々な色が浮かんでいる。

水晶のようでもあるが、オパールのようだとも思った。

そのどちらとも違うのは、浮かんでいる色それぞれが、まるで自分で光っているかのように輝きを放っていたことと、触れてはいけない神聖なもののような、そんな存在感を放っていたことだ。


「これは?」

「それ!しょ、晶石か!?」


横から食って掛かるようにムトが驚いた声を上げた。

しょうせき?って、なに?

エスタは頷いて、ムトに通じるようにここだけこっちの言葉に戻して話した。


「そうだ。ユート君にわかるように言うと、これは魔素が集まって結晶化したものだ」

「魔素…」


わかりやすく説明してもらったはずなのにわからない単語が出てきた…。

とりあえず魔力的なものって解釈しといてOK?


「そ、そこも通じないか…。そうか、召喚者は魔術が使えないんだっけか。そりゃ詳しく勉強してもいないよな。うん、なんか、魔力っぽいものと思っといてOKだ」


なんか釈然としない納得のされ方をした気がする。


「んで、だ。精霊は魔素を食事としている。それは存在を保つために魔素が必要だからだ。逆に、生きていくためにアタシたちのような食事は必要ない。物質を食べないんだ」

「へぇ」


なんとなーくニュアンスは伝わる。

固形物に代わる魔力的なものを、精霊は食べてるってことね?


「ところが君はテオ君に、血を与えている、という。それは一体どういうことか」

「たしかに?」


魔力量0の僕の血を食べたところでテオの血肉にはならない、ってことだね。

なのになんでテオは僕に噛り付いてくるんだろう?


『――――?』

『おんおん、てっおん ておおお~ てってお』


いつもと比べて偉く饒舌にテオがナルロスと会話している!

精霊同士はやっぱり話が通じるんだね?

ナルロスは何度かやり取りすると、エスタに向かって何か話した。


「………なるほど。こりゃ、大変なことになってんな」

「え!?」


大変なことってなんすか!

テオ、何言ってたの!?


内容が気になるのだが、エスタは何か考えるように目を細めた。


「ふむん…。しかし、こんなところで突っ立って話し続けるのもなんだし、夕飯でも食わねぇか?」


エスタがこっちの言葉に戻して、僕とムトに提案するように言った。

夕飯の席で詳しい話をしてくれるってことかな?

……そういえば、夕飯を探してたんだった。

唐突にお腹が空いているのを思い出した。


「そうだった、夕飯が食べれるところか、買えるところを探してたんです。どこか知りません?友達の分も買わないとなんですけど」

「…いや、この辺りの飲食店はみんなこの時間はもう閉まってるよ。そもそも数も少ないし」

「そ、そんな!」


ただでさえ一日何も食べてないのに!

後ろでムトも絶望したような表情になっている。

僕らの様子から事情を察したのか、エスタが同情したように言った。


「そうか、あんたら、他所で食料を調達できなかったか。……よし、今日の夕飯くらいでいいならご馳走するぜ。助けてくれたお礼もしたいしな」

「ほ、本当ですか!? いいんですか姉御!」

「誰が姉御だ。これでも旅を続けて長いからな。備蓄も多少はあるんだ。友達がいるんだろう?連れておいでよ」


少女が偉く漢前に見える!

…気風の良さが”姉御”って感じなんだよね。


「呪い……呪いね。魔獣を引き寄せ、精霊を連れて、召喚されて祝福を持つはずの日本人……」


去り行く僕の背中を見ながら、エスタが何かを呟いていた。

風に攫われて殆ど声は聞こえなかったけれど…なんだろうか。

ともかく、僕はエスタのご相伴に預かるために、ベンとフィデスを呼んでくることにした。


………のだが。


「そんな美味い話あるのかと思ったら…鉱人(ドワーフ)だって?」

「なんだよ…友達だって聞いてたから日本人かと思ってたが、スぺキア人だって?」


………なんだか、空気がバチバチしてるんですけど!

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