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第三十四話 襲撃だヨ!全員集合!

「あ!おい貴様ら!逃げるんじゃない!」


スライム巨人に斬りつけたり魔術で火球を放ったりしている看守たちを置いて、僕らはすたこらさっさと町に向かうことにした。

テオは隕石の中でオヤスミ中。流石に食事をしたからといってすぐに回復するものでもないようだ。

亜人奴隷の脚力は素晴らしいもので、迷宮であれだけ走り回ったのに、苦も無く僕を背負って二人について行っている。


「本当に逃げなくていいのか?」


亜人奴隷は不安そうに尋ねてくる。

確かに彼には命を懸ける理由がないもんね。


「大丈夫、どうしようもなくなる前に君は解放するつもりだから」

「そういう問題じゃ………カイホウ?」


きょとん、とその言葉を何度も反芻する亜人奴隷。

………亜人奴隷って呼びづらいな。


「そういえば名前を知らないけど、なんて呼べばいい?」

「えっ、ああ、ムトだ。………カイホウ?」


心ここにあらず?

どうしたんだろう、とベンとフィデスを見ると苦笑いしている。


「普通、亜人の奴隷を解放しようなんていう奴はいないぞ。基本的に犯罪者だからな。放したところで別のどこかで悲劇を起こすだけだ」

「そ、それは…でもこの人…ムトは僕を何度も助けてくれてるし」

「考えが甘いぞー。お前の前以外では大人しくしているとは限らないんだ。正直オレは、獣人が人間と会話してること自体驚いてる」

「じゃぁ、ムトは特別良い獣人、ってこと?」

「めちゃくちゃ変な獣人ってこと」


それは別に”善性”を示す証拠にはならないぞ、とベンが口を尖らせて言う。

獣人はスぺキアでは毛嫌いされているというのは以前聞いたけれど、それにはそれなりの理由もあるらしい。


「どっかから逃げ出した獣人奴隷が食うに困って人間を襲うのはよく聞く話だ。そもそも彼らを受け入れようって言う集落(コミュニティ)が存在しない。お前、単身で誰の助けも無く山奥で一生豊かに過ごせるか?」

「む、難しいかな」

「それが答えだ。一人で生きていくのが難しいなら、奪うしかない」


世知辛いな…。

つまり、ムトを今解放したところで路頭に迷わすだけか。

うーん、不本意だけど彼にも一蓮托生になってもらおう。


「ごめんだけど、僕らに命預けてくれる?」

「そ、それは命令か?」

「あー、まぁそうなるかな」

「そうか。わかった。その方が納得できる」


うんうん、とムトは安心したように頷いた。命懸けろって言ってるのに。

奴隷根性というか、命令に従っている方が楽なのだろうか。




「敵襲だー!住民は避難をー!」


カンカンカンカン!!

ちょっと聞きなれてきてしまった警報の鐘。ソルスの町は騒然としていた。

流石にあの地響きで何事か起こっていることを察したのか、衛兵たちが大慌てで鎧を着たり武器を持ち出したりと門の前はごった返している。

苔色の迷宮はソルスの町の外とはいえすぐ近く。

あのスライム巨人が攻めてこようと思えばそれほど時間は無いだろう。


「くそ、鼻が曲がるな」


一度背中から降りると、ムトが鼻を押さえて顰め面をした。そんなに変な臭いしてるかな?

日本と比べれば確かに色んな臭いが充満しているけれど。

僕にはわからないけど、犬は嗅覚が鋭いから臭いを感じ取ってしまうんだろう。


「とりあえずオレはギルドに向かう。フィデスは材木を、ユートは灰を集めてくれ。ムトはユートとセットで行動しろ。なんかあったらこれを」


ベンから特製の煙玉を渡された。連絡時はこれを空高く投げろとのこと。

散開していく二人に、僕も動かなければとムトの背によじ登ろうとしていると、声を掛けられた。


「あ!ムノーさーん!」


人混みの中、見覚えのある人物が手を振っていた。

護衛騎士に囲まれた神官服の女性。マレだ。


「マレさん!」

「きゃぁ、獣人!?」


近付くと、ムトに驚いて悲鳴が上がった。護衛騎士がサッと出てきて道を塞ぐ。

今にも剣を抜きそうな勢いだ。

周囲の人たちもこちらを見て怯えている!


「あ!彼は僕の奴隷でして!」

「そ、そうなんですか?」


急に集まった視線に慌てて説明すると、納得してもらえたのか警戒が緩んだ。

そうか、亜人が町中を歩いているとこんなに警戒されるのか。


「ご主人、あの騎士も敵か?」

「あれは味方!神殿騎士は襲わないでね」


ムトが睨みつけるように護衛騎士たちを見ている。やめてちょうだい。

僕も詳しくは知らないけれど、王都の騎士と神殿の騎士は所属が違う。

看守たち王都の騎士は王侯貴族に仕える、いわゆる国所属の騎士。

一方、マレの護衛の騎士たちは神殿から神官へ派遣されている、三神教に所属する騎士。

流石に宰相も三神教を好きにできるほど手を伸ばしているとは思いたくない。


「先程、ギルドに応援要請が届きまして。私たちも協力することになったのです」


マレや護衛騎士が協力してくれるのはありがたい。


「そうなんですか!僕らはその現場から来ました。とりあえず灰を集めたいんですけど、どこに行けば集まるかわかります?」

「灰……ですか??何に使うかわかりませんが、鍛冶屋か公衆浴場辺りに行けば効率よく集められるのではないでしょうか?」


首を傾げながらマレが答える。鍛冶屋と風呂か。確かに大きな竃がありそうだ。

早速向かおうと思っていると、マレが引き留めてきた。


「まぁ!ムノーさん、怪我なさってるじゃないですか!回復薬(ポーション)は?無いんですか?ちょっと待ってください」

「マレ様、無償での奉仕は…」

「こんな時に何を言っているのですか!彼は私の恩人ですのに、金を払ってもらわねば恩返しもできないと仰るのですか?」

「そ、そういうわけでは…」

「まったくもう。これだから神殿騎士と居ると肩が凝るんですよね」


マレが肩を竦め、護衛騎士が項垂れている。

どうやら護衛騎士たちはマレに振り回されているようだ。

……護衛騎士が合流する前にギルドを抜け出してたのも、もしかして一人を満喫したかったからとかじゃないだろうか。


しょぼくれる護衛騎士を置いておいて、マレが僕の傷に手をかざす。

何やら白い光が淡く輝くと、手足からじくじくとした火傷の痛みが引いていった。

これが祝福…王都では怪我することなかったから、初めて経験した。

………でも、ミオの治療の方が早いような?


それでもあっという間に傷はふさがり、まるでなにもなかったみたいにつるつるの肌になっていた。


「ふぅ!これでよし、です。痛いところはないですか?」

「はい、全然痛くないです!あ、ムトの火傷も治してもらったりできます?」

「貴様、獣人の傷など…」

「こら!構わないじゃないですか、それくらい」


しゅんとする護衛騎士。

マレは文句を言うことも無く、ムトの顔の火傷も治してくれた。

スライムに突っ込んだ時にちょっと焼け爛れてて、近くで見ると痛そうだったんだよね。

当の本人は本当に癒してもらえてびっくりしているようだ。


「ありがとうございます!」

「…………あ、ありがとう」

「ふふ、これでちょっとだけ恩返しができましたね。ところでムノーさん、現場から来たということは、事の仔細をご存じで?」

「ああ、そうですね、マレさんたちには伝えておいた方がいいか」


迷宮の支配者(ダンジョンマスター)という存在は、実際目にしないと俄かには信じられないらしいし、ギルドに報告は行っているみたいだけど過小評価されているかもしれない。

マレは祝福者で聖職者、彼女から伝えてもらえば実際見てない人にも緊張感が伝わるだろう。

僕は迷宮で起こったことのあらましを(必要なとこだけ)伝えた。


「ま、まさか、本当に迷宮の支配者が?」

「ギルド長は夢でも見たんだ、と笑い飛ばしていたが…」

「本当なら、この町が無くなりかねん災害だぞ…」


護衛騎士たちもざわざわと囁き合っている。やはり信じてもらえてなかったようだ。


「どなたか、再度ギルドに警告を。我々では手に負えない可能性が高いです。死傷者を少しでも減らすため、私も前線に出ます!」

「「「はっ!」」」


マレの指示に護衛騎士たちが威勢のいい返事をし、一人がギルドの方へと走っていく。

頼もしいことだ。僕らも行かなければ。


「マレさん、ありがとうございます」

「なんの。人民の救済は我々聖職者の使命。頼まれずとも赴きますとも」


僕が頭を下げると、笑って胸を張って答えてくる。


「ムノーさんも何やら策がおありの様子。どうかお気をつけて」

「はい、行ってきます!」


なんだか、背中を押された気分だ。

こうして笑って見送ってもらうと、俄然やる気が湧いてくる。


「あ、そうだ!これを持って行ってくださーい!」

「うわっと?…ありがとうございまーす!」


去り際に、マレが何かを投げた。

なんだこれ。木札?……いや、これは!


「ギルドからの任名証です!」

「い、いいんですか?任命されたのはマレさんでしょう?」

「私はそんなの無くても()()で大体言うこと聞いてもらえますのでー!」


マレが掲げたのは、昨日の護符(タリスマン)。つまり祝福の神官の証だ。

まるで印籠のようだ。もらった木札も似たようなものだけれど。

とにかく、これがあれば百人力!

ムトに走ってもらって、とにかく一番近くの鍛冶場へ向かった。


「………ご主人、ああいうのが好みか?」

「ぶへっ!? こ、好みって!…あのねぇ、彼女いない歴=年齢の人間には、女の子に応援されるとテンション上がってやる気出ちゃうもんなの!」

「寂しい習性だな…」


なんだよその顔―!

こっちの世界、平均的な結婚年齢が20歳未満だから何でもかんでもすぐ恋愛感情と結びつけようとするんだよねー!そういうのよくないと思うなー!

まあ彼女ができるに越したことないんだけどさー!


「そういうムトはどうなんだよー!彼女とかいるのかー?」

「………居()。俺にはもう、できることはないだろうよ」

「それはその………申し訳ありませんでした……」


なんかこっちが喧嘩売られたのに殴り返したらお通夜みたいな空気になったんですけど。

そんな過去あるのにそういう話題振るのよくないと思うな―?


「……こっちこそすまない」


あ、本人もそう思っていたみたい。




外壁近くは騒然としていたものの、中心に近付くにつれて騒ぎは収まっていった。

獣人に乗って駆ける僕を驚いた様子で見る人は多いが、悲鳴を上げたりする人はいない。それだけ緊張感が薄いのだろう。

迷宮と冒険者の町として分厚い外壁に守られている分、中心地は災害に鈍感なのかもしれなかった。


「すいませーん!灰を分けてもらえないでしょうか!」

「あぁん?なんだ若ぇの」


とりあえず、手近にある鍛冶屋に飛び込んだ。

奥から現れた筋骨隆々の、いかにも親方!って感じの人が変なものを見るような目で現れた。


「警報聞きましたか?苔色の迷宮から巨大な魔物が出て、それを退治するのに灰が必要なんです!」

「おいおい、だからってタダでくれてやるわけにゃいかねぇんだがな」


ううん、予想はしていたけれど、反応が渋いっ!

この町では警報も日常茶飯事なのだろうか?親方には焦るような様子はない。

現に、なにか起きているのは知っているけれど、何が起きているのかは気にしていないようだった。


それにしても灰ぐらいタダでくれないのか、と思う人もいるだろう。

でも灰って意外と用途があるんだよね。こっちの世界では一般市民でも灰を使う。

何に使うかと言うと、染め物や灰汁抜き、畑の肥料など色々使う。最たるものは石鹸だ。

石鹸はちゃんとした加工をすれば貴族に卸す高級石鹸にもなるので、その材料の一つである灰は実は大切な資源だったりする。

……サツキが自分で石鹸を作ろうとして灰塗れになってたことがあったなぁ。


とにかく、こういう時に効力を発揮するのが任命証です!


「緊急事態なんですよ!お代が欲しいなら、後でギルドに請求してください!」

「に、任命証?まじか、そこまで大事ならしかたねぇ。取ってくるからそこで待ってな」


ざっとこんなもんよ!

凄すぎない?実際凄いんです、この任命証。

なんたって任命証は「緊急時、ギルド長が直々に信頼できる相手に()()として権限を持たせたことを示すもの」なんで。

つまり今の僕はギルド長代理の権限を持ってる。

そんなん、ぽんと他人に渡しちゃダメでしょマレさん。


なんにしても、今はこれの存在がありがたいことこの上ないので使わせてもらうことにしましょ。

緊急時ですし。


「ほらよ。これでどうするのか知らんが、くれぐれもこの町を頼んだぜ。…あんた、見たことない顔だが冒険者か?任命証を持ってるってことは有名な冒険者なのか?」

「ええと、知ってる人はいないと思いますけど…星の集い(ステラ・トゥルマ)ってパーティですよ」

「そうか。なんにしろ、ギルド長が信頼するなら良いパーティなんだろうな」


頑張れよ!と激励を受けて外に出る。

……あの、本当は開設二日目の新米パーティなんです……。

なんか、騙してるみたいでちょっと罪悪感。

やっぱり僕は、根本的に悪いことができない正直者だ…。


「どうだった?」

「……心が痛いです」

「??」


感傷は置いておいて、一抱えの灰が手に入った。

運ぶならもう二つくらいが限度だろうか?結構重いし。

鍛冶屋は一軒あると近隣に何軒かあるものだ。そこを回れば集まるだろう。


スライム巨人はまだ足止めされてくれているだろうか?

不安になって振り返った僕は、思わず足を止めた。


町の外壁、氾濫(スタンピード)すらも押し止める分厚く高い壁のその向こうに。


[は、は、は。ようやく、だ]


にたぁ、と笑う緑の巨顔。

外壁に今にも手を掛けんとする距離に、スライム巨人の姿があった。

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