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第二十話 魔獣じゃないかも

”森の砲弾”は地面に開いた窪みの中で息絶えていた。


「これを、テオが……」

「未だに信じられん」


フィデスに肩を貸し、様子を見に来た僕らは茫然と惨状を眺めた。

圧し潰された”森の砲弾”は無残な姿で、串刺しになってた時よりグロいことになっている。

詳細は省くことにしよう。ご飯が食べれなくなってしまうし。


それにしても、どうやってこんなことをしてみせたのだろうか。

本人は僕の頭の上でオヤスミモードである。

凶悪な力を持っている、ということはあれを見て理解はできた。

できたのだが、あまりにもテオがのんびりしているせいでイマイチ実感というか、恐怖心というものが湧かないのだけど。


テオは本当に何者なんだ?

魔獣だとしてもあんな力を持つ魔獣を僕がテイムなんてできようはずもない。


「この強力無比な力…系統不明の魔術…無詠唱…まさかと思っていたが…本当に…」

「フィデスさん?」

「ユート君、よく聞きたまえ。………テオくんは、”精霊”かもしれない」


僕の肩を掴み、正面から見据えて言うフィデス。

でも僕は。


「あっ、やっぱりそういう感じ?」


図書館で二人が精霊は違うんじゃないかって言ってたから、じゃあ違うのかーって思ってたけど、やっぱ精霊なんじゃないか。

むしろ納得しかない。


「わ、わかっていて言っているのかね?精霊だぞ?」

「僕の世界の解釈だと、自然の化身とか、万物に宿る神秘(スピリチュアル)な存在だったり、森とか地震とか嵐とか海とか操ったりする、そんな感じかな」

「そうだ、そうなのだが…その解釈で驚かないのか?」

「創作物だとよく登場するんで。僕にとってはこの世界も物語の世界みたいなとこあるからあんま突飛な物でもないというか」


腑に落ちない顔で「そ、そうか…」と腕を組んで考え込んでしまうフィデス。


「うぅ……」

「そうだ、ベンさん!」


聞こえてきた呻き声に慌てて振り返った。

ベンは弾き飛ばされたときのまま、木に背中を預けて座り込んでいた。

急いで駆け寄り、傷の具合を確かめる。……よかった、大した怪我ではなさそうだ。

たぶん、いつも抱えているカバンがクッションの代わりになって”森の砲弾”の攻撃の威力を弱めてくれたのだろう。


ベンは少し意識が朦朧としているようだが、それでも立ち上がろうとしてバランスを崩した。

と。その拍子に、ベンの抱えていたカバンから何かが転がり落ちた。

どうやら衝撃で破けてしまったらしい。

ごとりと重い音を立てて落ちたものを見る。いや、見ようとした。

ん?今何が落ちた?

地面を見回しても、何が落ちたのかわからない。土、草、石、木。目に入るものに、それらしいものはない。


ベンの焦点がゆっくりとだが定まり始め、そして一点を捉えて止まった。

その視線の先には何もない……いや、割れた石が落ちていた。


「………あぁぁっ!!ジョゼ!!」


ジョゼ???

何もわからず困惑する僕を突き飛ばすほどの勢いで、ベンが地面に飛び込んだ。

割れた石を震える手で持ち上げ、顔をくしゃくしゃにする。


「ああ、なんてこと……!こんな、こんなになって、オレを守ろうとしてくれたのか……」


ぎゅう、と石を握りしめて抱き寄せるベン。

………この世界に石化があるって聞いたことないけど、僕が知らないだけなのかな?

石化しちゃったペットとかだったりします?


「ベン君。あー、聞いても構わないかね?なぜ石に頬ずりを?」


フィデスから見てもやっぱただの石ですよね。

単純に状況を飲み込めず、フィデスも困惑したように尋ねた。

そのときようやく周囲の状況を理解し、ベンの動きが止まる。


顔がみるみる青くなり、滝のように汗が吹き出し始め、口がパクパクと声無く動く。

あ、これ見ちゃだめだったやつだ。


「…………ジョゼは残念だったね」

「うわぁぁぁぁあああ」


なんとかフォローしようと思ったんだけど……ベンは膝から崩れ落ちた。

大丈夫…大丈夫だよ…なんも見なかったことにするよ……。




「………嗤うなら嗤えよ」


しばらく叫んで落ち着いたかと思ったらカバンを抱え込んだまま寝転がって背を向けてしまった。

すっかり拗ねている。そんなに知られたくなかったのか。


「つまり、石を集めるのが趣味、と」

「……………そうだよ。石に名前つけて愛でるのが趣味だよ。悪いか」


不貞腐れてるなぁ。


「悪いことなどないと思うがね」

「オレの仲間も最初はそう言ってたんだ。でも結局、合わなくなって離脱した」


ぎゅう、とベンはカバンを強く抱きしめた。

当時の嫌な記憶を思い出してしまったのかもしれない。

こっちの世界はまだ他人の変わった趣味を受け入れる心の余裕が少ないから、変な物事は拒絶されるのが常なのだろう。


「……何考えてるかわからなくて、気持ち悪いだろ」

「いや、珍しいとは思うけど割と普通なんじゃない?僕の故郷ではよくある趣味だと思うよ」

「………そうなのか?」


お、ちょっと持ち直した。

少しだけこちらの話を聞く気が出てきたようだ。


実際、地球の人の趣味は多岐に渡り過ぎているので、石の収集癖程度ではそんなに驚かない。

動画文化とかが発達して変人が大いに受け入れられているからね、地球では。

そんな話をするとベンは納得するように何度も頷いた。


「そう、なのか。……割と普通、か」

「そうとも。私の恋人たちには切った爪を集めて○○する趣味とか、血を少しづつ抜いては××する趣味とかいたからな!それと比べれば全然普通だとも!」

「え、それはオレも引くわ……」


とりあえずフィデスの倫理観が心配です。

納得したのか、ベンが身体を起こした。


「オレがオセアンで冒険者を始めたきっかけは、石だったんだ。珍しい石を探して、迷宮に潜ってた」

「珍しい石?宝石とかでもなく?」

「うん。”精霊が撫でた石”だ」

「おとぎ話のやつかね」


話を聞くと、どうやらこちらの世界では、川にある丸まった石とか、鍾乳石とか、ちょっと変わった形の石を”精霊が撫でた跡”と呼ぶそうだ。

水の精霊とか、風の精霊が遊んで形が変わった、と言い伝えられているらしい。


……川の流れで石同士がぶつかるとか、地下に染みた水分の不純物の堆積とか、そういうことを言ってしまうのは野暮なんだろう。

そもそも地球での物理法則と同じかわからないしね。ロマンはあった方が楽しいだろうし。

兎も角、ベンはそういったちょっと変わった石を集めるのが趣味らしい。


「ほんとは、精霊を見つけることがオレの夢なんだ。石集めはそのための研究」

「あれ?でもベンさんって精霊信じてないんじゃなかった?」


僕が精霊いてもいよねって言った時、「精霊信じてるのー?ロマンチックー」とか言ってなかったっけ。

そういうとベンは口を尖らせて顔を逸らした。


「いや、それを言ったのはオレじゃねーし…精霊信じてるとか、普通の人は言わないし…言ったら引かれるし…」


精霊を信じるって、こっちの世界での「まだサンタクロースの存在を信じてる大人」みたいな扱いなのかな…。

つまり僕もかなり痛めな大人って感じ?どうなんですかフィデスさん。


「シャンタクロースト?とやらはなんだかわからないが、まぁ良い顔はされないだろうな」


やっぱそうなのか…。

あと、シャンタクローストじゃなくてサンタクロースです。

…あれ、なんで僕はこの恋愛狂(へんたい)に一般常識を訊ねてしまったんだろう。

本当に一般常識なのかわからなくなったぞ。


「悲しいかな!君がそこまで苦しむとは、今まで余程、好奇の目に晒されて生きてきたのだね…!だが安心したまえ、私はどんな趣味嗜好を持っていようと、害成す趣味でない限り、受け入れて見せるよ!」

「じゃかぁしい!あんたに受け入れられても嬉しくないっ!」

「ふふ、元気が出たようでなにより」


『てお?』

「あ、こら」


あ、気付いたら寝ぼけているのかふらふらしながら、テオがベンのカバンを漁って遊んでる。


「そういえばですねベンさん」

「なに?」

「ベンさんが探しているという精霊、そこにいるらしいんだけど」

「は?何言ってるんだお前」


眉間に皺を寄せてこちらを見るベン。馬鹿にするなとでも言いたげだ。

そうか、ベンはさっきのテオの力を見てなかったのか。


「いや、フィデスさんからそうらしいと聞いただけ」

「……うむ、ベン君は気絶していて見ていなかったようだが、()()をやったのはテオくんでね」


くい、と後ろを指さすフィデスに、ようやくベンは”森の砲弾”がどうなったのか理解したようだった。

茫然と口を開けてクレーターの中に沈む死骸を眺めている。

僕らがどうにかこうにかできるようなことでは、少なくとも人間業ではないことはわかるはずだ。


「……いや、まだ、まだ信じるには早い」


ふらり、と立ち上がってベンが呟く。

テオが漁っていたカバンを持ち上げると、中をゴソゴソと探り、底の方から一つ、石を取り出した。


「”精霊は自然物に宿る”と言われている。縁の深い自然物にはより強く執着するとも。なら、これはどうだ?」


手のひらほどの大きさの、石?…石と呼んでいいのか微妙なものがそこにあった。

中心に煌めく薄闇色の透明な石があり、その周りを覆うように銀色の破片や石がくっついている。


星の落とし物(いんせき)だ。テオと会ったところの近くで拾った」


綺麗だが、感心するよりも先に不思議過ぎて首を捻ってしまう。

よく見ようと近付いたとき、テオがピクリと身じろぎをした。


『ておっ!?』


さっきまでぽやぽやと寝ぼけ眼だったのに、急に眼を輝かせてベンの持っている石を凝視した。


『ておっ!ておっお!おおー!』


…これは、もしかして、喜んでる?

そしてテオはぴょんと頭から飛び降りると……石の中に吸い込まれていった。


「え!?」


驚いて石を見ると、中心の半透明な部分が仄かに光り、その中でテオの姿が揺らめいて見える。

テオは嬉しそうに、中の具合を確かめるようにぐるぐると動くと、すやすやと眠り始めてしまった。


「せ……精霊だ……」


ベンがわなわなと声を上げる。


「そっか、やっぱり精霊っているんだねぇ」

「なにを平然としてるの!?精霊だよ、精霊!」


………まぁ、二人が精霊だというならそうなのかー、って感じなんだけど。

僕には魔獣にしろ精霊にしろファンタジー生物に違いはないし。


「……ユート、テオくんのこと、オレにくれない?」

「ええー…?」


やばい、ベンがギラギラした目でこちらを見ている。


「見世物小屋に売ったり、解剖したりしない?」

「するわけあるかっ!精霊はオレにとっての憧れなの!実物を観察したり、触ったり、一緒に暮らしたりしたいの!」

「あぁ…それならまぁ、いいよ。別に僕がテオを飼ってるわけじゃないし、テオが勝手についてくるだけだから」

「本当かっ!?」


ベンは飛び上がって喜んで、テオの入っている石をぎゅう、と抱きしめた。

そしてカバンの中に大事そうにしまおうとした、のだが。

テオが、にゅっ、と石から頭を出すと、迷惑そうに石を抱えてふよふよと飛びあがった。

そして僕の方へやってくると、僕の手にぽんと石を置いて、また石の中に入ってしまった。


「いやいや、テオの新しい飼い主はあっちだよ」

『おおん……』


ベンに石を手渡しても、僕が数歩下がるとまたも迷惑そうにテオが出てきて石を僕に渡す。

それを何度か繰り返して、これは無理そうだぞ、という結論に至る。


「どうやらユート君以外に持たれるのが嫌なようだね」

「そ、そんな…!」

「残念だけど…」

「ずっと探してきた精霊にやっと会えたんだぞ!?」


そんなこと言われましても。本人が嫌だと言うなら仕方ないじゃないか。


「絶対認めないぞ!オレの方がテオくんを大事にできるって、テオくんにわかってもらえるまで付きまとってやるからな!」

「う、うん?あれ、冒険者としてのいろはを教えるまでって話は?」

「そんなんもう関係あるかっ!テオくんにオレが認められるまで離れん!」

「はっはっはっは、よかったなユート君。一蓮托生の仲間が増えたぞ!」

「良いのか悪いのか…ああー、ベンさんは常識人枠だと思っていたのに…」


なんで僕の周りには変な人ばかり集まってくるんだ?


「類は友を呼ぶというやつだ」

「僕はフツーの人だよ!?」

「異世界から来たし、魔獣を呼ぶし、勇者なのに命狙われてて、精霊の飼い主してる、十分変な人だよ」

「そんなー!」


僕らは変人パーティだったのか!

どうやら、変人二人と精霊一匹が僕の旅の同行者として確定してしまったようです。




そのときまだ僕は予想もしていなかった。

この変人三人と一匹の旅が、国どころか世界を変えてしまうものになるなんて。

今はただ、何も知らず無邪気に笑いあっていたのだった。

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