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第十二話 流れ星

「流れ星だ!」

「あ、ほんとだ、珍しい」


きらり、と閃いた流れ星はすぐに消えてしまう。

が、その直後にまたひとつ、またひとつ、といくつもの流れ星が空を横切った。

おお、もしかして流星群?願い事チャンスじゃん!


「呪いが治りますように呪いが治りますように呪いが治りますように……」

「なにしてるんだ?」

「え、流れ星に願い事、しないんですか?」


またしても不思議そうな顔をされてしまった。

どうやらこちらの世界には流れ星に願い事をする文化も無いらしい。


「流れ星は運命の変動の象徴だろ?どちらかと言えば不吉なものだ。それに願い事するのか?」

「不吉!?僕の故郷では珍しいものだから、見れたら幸運なものですよ!」

「ほほう。所変われば、と言うが、世界変われば考え方も真逆なのだね」


こちらの世界でも占星術とかあるらしいけど、流れ星は星の巡りを乱してしまう悪い存在、という扱いなのだとか。

悪い星の巡りの時は、逆に悪い運命を乱してくれる良い存在でもあるみたいだけど。

流れ星は地上が平和であるほど疎まれるらしい。なんか悲しいな。

そんな存在に願い事をすることはまずないそうだ。


「流れ星が消える前に願い事を三回言うと、叶うんですよ」

「えー、消えるまでに三回?無理じゃない?」

「難しいから、達成したら叶うんです」

「ふむ、ロマンチックだね」

「まぁ迷信ですけど」


迷信を信じる訳ではないけれど、そんな手間でもないし、やってみてもいいじゃない。

呪いが治りますように、だとちょっと長いかな?呪い治れ、か、魔獣来るな、の方が短いか。

流星群のおかげでまだチャンスはいっぱいある。

お祈りを続ける僕を見て、やってみようと思ったのか二人もぶつぶつと小さく何かを呟き始めた。

何をお願いしているのだろうか。


「魔獣来るな魔獣来るな魔獣来るな…」

「必死だね……」


もう願い事は終わったのか、ベンが、まだお祈りしている僕を見て呆れた声を出す。

そうなんですよ、迷信にすがる程度には必死なんです!

僕は魔獣から離れて平穏に生きたい!


と、夜空を見上げていると、夜空の端にひと際大きく見える流れ星が現れた。

糸のように細い線を引く他の星と比べると、まるで縄のような太さである。


「うわ、でか!魔獣来るな魔獣来るな魔獣来るな…こっちの世界って、でっかい流れ星なんてのもあるんですね!僕、初めて見ました」

「いや、しらん…なにあれ…こわ…」


とりあえずお願い事をしてから振り返ると、ベンもフィデスも流れ星を凝視していた。

え?異世界ファンタジーで流れ星もでっかいのが来ることがあるんだと思ったんだけど違うの?


「………もしかしてユート君、また何かしたかね?」

「濡れ衣やめて!?」

「冗談だ」


洒落になってないのでやめてください!

なんて言っている間にも極太流れ星は天高く上がり、中天に差し掛かるかどうか、というところで……


かくん、とこちらへ角度を変えた。


「へ?」

「こ、こっちの世界だと、星って曲がるもんなんですか?」

「そんなわけないだろう」


しばし沈黙。


「とりあえず逃げよう!」

「「賛成!」」


とにかく走ることにした。

ここに落ちてくるとは限らないけれど、何か変なことが近くで起こった時、それは僕に関係しているという経験則からである!


「あ゛ーっ!なんなんだよ今日はっ!おかしいだろー!?」

「ははっ、スリル満点だ!君、いつもこんな感じかねっ?」

「きょ、今日は特別です!いつもはこんなんじゃないですっ!」

「いつもコレだったらオレは降りるっ!」


ああ、なぜ今日はこんなにも酷い目に遭うのだろうか。

一日の内に酷使した足にもうひと踏ん張りさせながら、僕は内心泣いた。


朝、三回も魔獣の襲撃があり。

王都から追放されて。

看守に殺されかけて。

魔獣に追われて。

解決の希望が見えた矢先にこれか。


一瞬、足が重くなる。


…遮陽神官は言った。「神に微笑んで欲しい時、神は既に微笑んでいる」。

既に神が微笑んでこれでは、神でもどうしようも無いほど死ぬ運命にある、ということなのでは。

それじゃ、これ以上頑張っても、もっと色んな不幸が起こって死ぬ?


僕は、本当に、存在するだけで不幸を呼び込んでしまうのか?

呪いには、抗えないのか?

呪いで死ななくても、いずれ宰相の追手に殺されてしまうのでは?

……それなら、ここで死んだ方がいっそ楽なのでは?




……………知るかぁあっ!!!勝手に呼んでおいて、殺そうとするとか冗談じゃねぇ!!!


僕が生きてるだけで皆に迷惑かけるぅ?

なら呼ぶんじゃねぇ!元の世界に帰せ!今まで帰れた勇者はいなかった、で済ませないでくれ!

うぉおお絶対生き残って王都の連中に一泡吹かせてやるちくしょぉおお!

死ぬまで生きてやるぅうう!!


何言ってるんだか自分でもよくわからなくなってきたけど、キレたらちょっと足が軽くなった気がする。

そうだよ、呪いだって、僕を召喚したからかかったものじゃないか。

責任は僕を召喚した人にある!僕の掛けた迷惑料は全てその人に請求してください!

………あれっ、それってつまり国王陛下じゃね?

よし、今回の件が片付いたらその辺も談判しよう!

とりあえず今は走れぇぇぇええ!!


ずがんっ!

「うぎゃーっ!?」


と、近くで大きな炸裂音がした。

何事かと見れば、流れ星と一緒に落ちてきたのか剥がれ落ちたのかした破片が、一足早く地表に到達したようだ。

ひとつ、ふたつと外壁や石畳に突き刺さり、それだけでも人くらい軽く粉々にできてしまいそうなひび割れが生まれている。

こわ!


欠片であれだと、あの巨大な流れ星を避けるためにはどれだけ逃げればいいんだろう?

幸いこの辺りは人気のなくなった商店街なので、運が良ければ住民の被害はなさそうだけど。

えーと、隕石のクレーターってどんなもんだったっけ?

流れ星が落ちてくるまでの時間はあとどのくらい?


そんなとりとめのない考え事をしていたからだろうか。

足が、石畳に引っかかった。

舗装されているとはいえ凸凹の多い石畳だ。下手に歩けば躓く部分はたくさんある。

そんなところへ全速力で運動神経悪い人間が突っ込んだらコケるのは必然だろう。

あっという間に頭と体の高さがひっくり返り、僕は盛大に石畳の上を転がった。


「ユート君!」「ユート!」


最悪だ…何が何でも生き残ろうと思ったのにこの始末だ。

しこたま打ち付けた体を必死に起こし、顔を上げる。

二人とも、僕を助け起こそうか見捨てて逃げようか逡巡しているようだった。

だがその数舜の判断の遅れも命取りだった。

もはや流れ星は目前にあった。


はは…頑張ってもこれなら、もう仕方ないか。

もう逃げ切るとかそんな次元じゃない。僕の心には諦観だけがあった。

フィデス、ベン、巻き込んでしまってごめんなさい。

あーあ、どうせ異世界に来て役立たずなら、もっと冒険とかやりたいことやっとくんだったなぁ。

そうして僕は、潔く目を閉じた。




………………………………?

何も起こらない。

もしかして僕、もう死んでる?

固く閉じていた目をうっすらと開け、そして目の前に広がる光景に驚愕した。


明るい。昼間どころか、太陽を直接見たような強烈な光だ。

僕の眼前に、光を放つ大きな何かがある。これは……光の、泡?

もしやこれが、流れ星の正体、なのだろうか?


……いや、隕石って言われた方が納得してたよ。

これなに?


何にしても眩しすぎる。

しかも目の前に浮いていて邪魔なので、押しのけようと手を触れた。

その時だった。


ぱちん、と泡はその形を弾けるように崩すと、押しのけようと伸ばした僕の右手に、吸い込まれていったのである。


「……!?…………!!???」


吸い込まれるといっても、僕には何の感覚も無い。

何かを吸収したような感じも無ければ、何かが変わった感じもしない。

ただ、光の泡が消えると、右手の甲にポツンと、白い点が現れた。

やだ、なにこれ、シミ?


そして光の泡が消えた後、()()()がそこにいた。


『てぉ!』

「えっ?なに?」

『てぉーん!』


奇妙な鳴き声のようなものが聞こえる。

光の泡のあった場所に、黒っぽい何かがいる。

何かがいるのはわかるのだが……


暗くて見えない!


眩しかったのが突然暗闇に戻ったので、目がしぱしぱしていてなんも見えん!

え、ごめん、なんか挨拶してくれたっぽい気がするけど、何がいるの?


探るために手を伸ばすと、そこにいるなにかに、ガブリと噛まれた。

いてぇっ!

うー、犬とかも突然手出されたら噛むもんな。

僕が迂闊だった……あー、傷、意外と深い!これはちょっと血、出てる!ぜったい!


「あー、何が起こっているかわからないのだが。ユート君、大丈夫かい?」

「とりあえずみんな生きてるー?オレ、もしかして死んでるー?」


背後からフィデスとベンの声が聞こえる。よかった、二人とも無事のようだ。

どうやら二人も僕と同じく、眩しさからの暗転で目がまだ慣れていないらしい。

「生きてます!」と返事をすると声を頼りに足音が近付いてきた。


「よく生きてたねぇ」

「もう今日はさすがに、騒動はこれきりにしてほしいものだね?」

「それは僕もそう願いたいです」


思わず渋い顔になってしまう。ほんとにこれきりにしてほしいよ。

とりあえず目を慣らすために瞬きを繰り返して、なんとなく二人のシルエットがぼんやりと見えるようになってきた頃。

堪りかねたようにベンが口を開いた。


「………ところで。ユート、その、目の前のそれは、なに?」

「ごめん、急に真っ暗になって何も見えてなくて…何がいるんです?」


まだ目は暗闇には慣れてない。

流石は現役冒険者。ベンはいち早く暗闇に慣れたのか。僕の前にいるなにかが見えているようだ。

しかし尋ねられた二人の方は、しばし沈黙したと首を傾げた。


「これは…………なに?」

「見たことも聞いたこともないものがいる」

「えぇ………?」


そんなことある?

これはもう自分で見て判断するしかあるまい。

目をごしごし、もみもみ、ぱちぱち、何とか暗闇に慣らして目を凝らした。


そこにいたのは、なんか黒い、顔のある饅頭と、模様のある饅頭みたいなものが縦に二つくっついたような、生物(?)だった。


『てお!』


生物(?)は手と思われる小さな饅頭を振り上げて、挨拶(?)している。

…………これなに?

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