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第十話 夜の街中

「わぁ~賑やかだなぁ!」


宿から外に出ると外は住民たちで活気に満ちていた。

僕らが宿で話している間に”森の砲弾”は衛兵により追い払われたそうで、屋内に避難していた人々が一気に外に出てきたようだ。

大仕事を終えて安堵の息を吐いている衛兵さんたちが肩を叩き合いながら往来を歩いている。


漏れ聞こえてくる話によると、縄張りから遠く離れた場所まで来たせいか、見た目ほどの脅威ではなかったそうだ。

しばらくしつこく街の門に突撃していたものの、衛兵たちからの矢の雨に耐えきれず、去っていったらしい。

お手数おかけしました…。


夜空にはすでに星々が輝き、月も明るくそれらを照らしている。

最近は冬ももうじきとなり日が暮れるのが早い。

人々の生活も日の長さに大きく左右されるので、商店はとっくに店じまいされて街中はほとんどの場所に静けさが漂っている。


その例外の、飲食店が多くある広場へやってきた。

食事の屋台が並び、各所にある酒場からも良い匂いが漂ってきている。

酒場でしっかり食事を取るのもいいけど、今は変に絡まれると厄介だから立ち食いでもして、ささっと済ませた方がいいのだ。


「うむ、なかなかの賑わいだ。…だが君は王都でもっと凄い人混みをよく見ているのではないかね?」

「僕が城下に出ると皆逃げちゃうから……」

「そ、そうか…」

「呪いの評判は絶大なんだね…」


申し訳なさそうな顔をする二人に、苦笑いしか返せない。


ちなみに、僕もフィデスもベンの着替えを借りたり、調達してもらった衣服に着替えている。

黒髪はこの世界にもあるのだけど、この国スぺキアでは珍しいらしい。

主には金髪と赤毛で構成されている人々の中に黒髪が紛れるのは、確かにちょっと目立つかも。

ということで僕はフードとバンダナで髪色を隠し、フィデスは汚れたシャツを着替えて吟遊詩人風のちょっと派手な真っ赤なチョッキを着た。

………うーむ、普通なら道化っぽくなってしまいそうな服を着ても気品が漂うのはさすがだ。本当にこの人貧乏男爵の次男坊なのかな?

とりあえず、冒険者は名を売るために派手な格好をしがちだし、冒険者の多いこの街なら上手く紛れられるだろう。


ベンは荷物は宿に置いておけばいいのに、カバンを抱えたままだ。

「貴重品は肌身離さず持っておかないと心配なんだ」と言っていたけど。


「今更ですけど、ベンさんは僕のこと知らなかったですよね。王都の出身じゃないんですか?」

「うん、東海岸にあるオセアンって港町の出身だよ。元々はそっちで冒険者してたんだけど。……おっちゃん、これ三つね」


串に刺した野菜の肉巻き。一口サイズでいくつも刺してあるので食べやすい。

肉はしっかりと脂身があり、しかし野菜のおかげでしつこくない。

濃いめの塩味がついていてなんとも美味い!疲れた体と空腹に染みる!


「今は新天地探して旅してるとこ。王都はほとんど素通りだったから、呪いの勇者様の噂は聞いてたけど詳しくは知らなかったんだよね。……美味~っ」

「ふむ。冒険者は採取型と討伐型と探索型に分かれるそうだが、君はどれだね?」

「オレは探索型。迷宮で見つけた素材や魔道具をギルドに卸すのがメインの仕事~」


へぇ、冒険者といってもタイプがあるんだ。

創作のイメージで冒険者は依頼されたらなんでもやるものだと思ってた。

それにしても迷宮かぁ。あるのは知ってるけど、見たことはないんだよね。

アツシたちはいくつか訓練のために潜ったみたいだけど、冒険の醍醐味!って感じで憧れるなぁ。


「探索型?探索型は『巣』と決めた迷宮から離れて他へ行くことはあまりないと聞いたが」

「んあー、そ、そうね」


フィデスの指摘にベンは、不味った!という表情を浮かべた。


「『巣』?」

「うむ、ホームグラウンド、というか。勝手知ったる迷宮の方が安定した収入と、安全が手に入るからな。迷宮探索を主とした冒険者はコレと決めた迷宮をいくつか持っているものだが、逆に言えばそこから離れれば情報収集や販路といったほとんどのものがイチからやり直しになる」


なるほど。

僕のイメージだと、迷宮を攻略したら次は難易度を上げた別の迷宮に行くものだと思っていたけど、こちらのセオリーはそうではないらしい。

あくまで冒険者も産業の一部なのかな。

自分の実力に合わせた迷宮を決めて、そこでの産出物を安定して集める生産者になる。

商品が安定して手に入れば商人も集まるようになるし、街の運営にも重要なことらしい。


それを手放すというのは、ベテランまで磨いた職を離れて、離れた土地で新しく会社を立ち上げる、みたいなものだろうか。

それは結構勇気がいることでは?

ましてやこの世界、外は命の危険が多いだけに一生を一つの村の中で過ごすという人も珍しくない。

ベンにはそうまでして外に出る理由があったのだろうか。

……あ、あれは


「探索されつくした迷宮に見切りをつけて、他の街でランクを稼ぐために移動する冒険者はいるそうだが」

「そ、そう!そうなんだよ。オセアンの迷宮は稼ぎが悪くなっちゃってさ。新しい迷宮を探してるんだ」

「サポートの君が、パーティを抜けて一人で?」


むぐぅ、とベンが口を結ぶ。


「…………パーティメンバーと喧嘩別れしたんだ。オレの趣味を悪く言うから」

「なんと。よほど悪し様に言われたのだね。良ければ詳しく……」

「ねぇ!あれ!あれ買ってきてもいいかな!」


どうしても食べたいものを見つけてしまって振り返ると、二人がなんとも言えない顔でこちらを見てきた。

あれ?なんか大事な話してた?


「お、おう!なんだ、どれが食べたいって?」


気を取り直して乗ってくるベンに対して、フィデスが口をへの字にしている。

なんかごめん。だって、()()を見つけてしまったから、つい。


「肉巻きおにぎり?」

「うん」


そう、肉巻きおにぎりの屋台があったのである!

なぜ異世界に米があるのかと不思議に思う人もいるだろうが、スぺキアには長い歴史の中で何度も勇者が召喚されているのである。

何の因果か歴代勇者は全て日本人らしいが、日本人が何人もいて米文化が広まらないはずもなかろう。

日本人は!お米が!大好きだから!


「ほほう、握り飯に肉を巻いて焼いているのか。この香りは…醤油かね?」


そう、米が広がっているなら醤油もある!

歴代勇者たちが頑張ったのか、異世界なのに日本食の文化が結構あるのだ。

とはいえ、城で出されていた食事はどっちかと言うと洋食寄りで、ごはんも平皿に盛られてて、ライスって感じだった。

おにぎりや味噌汁のような、王族貴族の食卓のイメージにそぐわないものは大体平民食として食べられていたりする。

つまり、城で客人として生活させてもらっていた僕は、平凡でジャンキーな食に飢えているのである!


ベンに何でもかんでも買ってもらうわけにもいかないので、僕から二人に肉巻きおにぎりを買って渡した。

是非ともこのジューシーでお腹に満足な一品の虜になってみてほしい。


「うわ…なにこれうっま!」

「かなり濃い味だが、中の米で中和されて丁度良くなるな」

「あぁ~~~これこれぇ」


異世界なのでアルミじゃなく、サッパと呼ばれる葉っぱで巻かれていて少し青臭い香りがするけれど、味は日本でよく食べていたあの味にかなり近い。

ああ、懐かしの日本の味…あとは味噌汁飲みたい。お出汁効いたやつ。


はぁ、ついついテンションが上がってしまったけれとようやく落ち着いてきた。

で?なんの話してたんだっけ?

あ、そうそう。


「港町だとやっぱり魚の方が食べなれてたりするんですか?」

「そうだね。毎日魚は食べてたよ。あとは、香辛料とかも結構色んなのがあったかな。外国から輸入してくるから」

「へぇ~、じゃあもしかしてカレーとかもあったり?」

「かれえ?ってなんだろう?」

「ないのかぁ~~」

「………」


ベンと盛り上がっていると、なんだかやけにフィデスが静かだった。

見ると、口を尖らせている。なんか小さく「私も仲良くなりたかった」とか言っているけれど…。


屋台でひとまず気になるものを一通り買うと、広間から離れて宿へ戻ることにした。


「ユート君、君、結構食べるのだね?」

「冒険者でも中々そこまで食べないよ」

「い、いや、これは、勇者は皆これぐらい食べましてですね!」


僕が両手にいっぱい食べ物を抱えているのを見て呆れた表情をする二人に、僕は焦って弁明した。

実は僕に限らず、他の勇者も全員がこちらの世界に来てから食べる量が増えている。

なんていうか、食べた気がしないというか、お腹が膨れないのだ。


どうやら歴代勇者もそうだったらしく、研究者が言うには、祝福か、異世界から来ていることが何か関係しているらしいのだけれど。

詳しいことはわかっておらず、量は多いが体調に問題は無いのでそのまま受け入れているらしい。


…という旨の弁明をしたのだが、二人からの視線は白けたものだ。

いや、確かに僕がヤケで嘘を言ってるだけに聞こえるだろうけど!


嘘じゃないんだ、と説明を続ける内に人通りは少なくなり、辺りはひっそりとした静寂に包まれ始めた。

街中には篝火が炊かれている他は、裕福そうな家に魔術具の明かりが灯っているだけで、ふと空を見ると、街が薄暗い分夜空がとても明るく美しく輝いている。


「わぁ、まさに満天の星空」

「今日は雲が無いからね」

「はは、それだけじゃないですよ」


きょとんとする二人に、日本、特に都心の辺りはあまり星が綺麗に見えないことを話した。

星が見えない、ということが衝撃だったのか、「星が無くなった、ということか?」とか慌てている。

そうではなく、都市の明かりが強すぎて星の明かりが地上まで届かなくなってしまったのだと説明すると、よくわからない、という顔をされた。


「明るい中にいても明るいものは見えるだろう?例えばこの篝火の近くにいるからと言って、他の篝火が見えなくなるわけではないが?」

「あー、う~ん、そうなんですけど、どう言ったらいいのかなぁ」


僕も聞きかじりで、原理を細かく知ってるわけじゃないから説明を求められると困るなぁ。

むーん、と悩みながら上を向くと、夜空にきらりと閃くものを見つけた。


「あ!流れ星!」

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