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プロローグ

人生最悪の日。それは間違いなく今日のことを言うのだと望月(モチヅキ)結斗(ユート)は思った。

朝からずっと散々な目に遭ったが、これはもう運命の神というものに文句を言ってもいいレベルだろう。

夜空に輝く星。美しいはずのその星は、今は恐怖の対象であった。

なにせ、どうにもそれは、こちらに向かってぐんぐんと大きくなっているようなのだから。

諦念に駆られ、走馬灯のように記憶が脳裏を駆け抜けていった。




その日の朝早くから、僕の不幸は始まっていた。


足をもじもじ、頭を掻き掻き、今すぐここから逃げ出したいな、と思いながら一人ぽつんと立たされてた。

お腹はキュルキュルと気持ち悪く、吐きそうで吐かない程度の吐き気がずっと喉の奥で待機している。


本来なら、やっとの思いで受かった大学で、平穏なキャンパスライフを満喫していたはずなのに。


「…………勇者、モチヅキ殿。そこで立たされている理由がわかるか?」


目の前の重厚そうな椅子にどっかりと座るのはこの国、スぺキアの宰相閣下。

そう、ここは大学どころか、地球でもない。

異世界召喚。

この世界に、七人の勇者の一人として呼ばれたのは二年近く前のことだ。


「……あのー、僕、また何かやっちゃいました?」


異世界ものの定番であろう台詞を言ってみる僕に、しかし宰相は頭を抱えて馬鹿でかため息を吐いた。


「やっちゃってるな。戦闘は素人、知恵もそこそこ、言葉はわかるが文字は書けない、魔族を殺したくないとのたまう、挙句の果てに”()()”とはな!其方(そなた)、一体ここへ何しに来たっ!」


並べ立てながらヒートアップしてきた宰相閣下は最後には怒鳴るように拳でひじ掛けを叩いた。

それは僕を呼んだあなた方に聞きたいです、と内心思った。


「今回の召喚は異例続きで上手くいかない部分も予想されてはいたが、まさかここまで役立たずが現れるとは」


勇者とは、彼らにとっての異世界(つまり地球)から召喚された、”祝福”という神からの加護、その中でも特に強力なものを授かった者たちをいう。


しかし、前回召喚された勇者は魔王討伐に失敗し落命してしまったのだそうだ。

勇者召喚は多量の魔力を消費する。スぺキアではそれを補充するのになんと150年もの時間がかかるという。

勇者の不在、再度の召喚は絶望的。スぺキアは窮地に立たされ、勇者を欠いたままでは魔王討伐はおろか、魔王軍との戦線を維持し続けることも難しかったらしい。


少しずつ押される前線、張り詰める緊張の中、希望をもたらしたのは国王だった。

若い頃から魔術の天才と称された国王は、魔力を効率よく補充する方法を発案、150年という時間を大幅に縮め、なんと20年という短い期間での勇者の再召喚を可能にしたという。

だが劇的に冷却期間(クールタイム)を短縮した皺寄せか、本来の召喚術とは違う点がいくつかあった。


その一つが、強力な”祝福”を授かった勇者が一人だけ召喚されるところを、それなりに強い”祝福”を持つ勇者が複数人召喚されているということである。

それだけでもスぺキアの上層部は頭を悩ませたのだが、その中にまるで故障(バグ)のように、”祝福”を持たない僕が紛れ込んでいた。


なんの能力も無いが、これでも勇者の同郷。

下手に処分しては勇者からの不評を買いかねないと国王が上層部をなだめてくれ、城での生活が許可され、こちらの世界の勉強や戦闘訓練をして過ごしていたのだが…。

そこに湧き上がってきたのが”呪いの噂”である。


「役立たずどころではない。今回引き寄せたのは怪鳥ルクか。これは勇者どころかとんだ()()()よ」

「僕が呼んでるわけじゃないんですけどね…」


気まずそうに頭を掻く目線の先、窓から喧噪が聞こえてくる。

それは先程この王宮を目指して突っ込んできた大型魔獣、怪鳥ルクを討伐しに出動した兵士たちの声であった。


「……っはーーーーーー……いいか、モチヅキ殿。この半月で二件目だ。結界に守られた王都に、二件だぞ?この一年で一体何件になると思う?」

「こ、今月は先月よりまだマシですし…」

「そんなことはどうでもいいっ!一年で三十件!三十だぞ!?あれが小物に思える魔獣が、三十!」


びし、と窓の外を指さす宰相閣下。

外では一軒家とそうサイズの変わらない巨大な鳥が兵士の槍に突かれて、けたたましい鳴き声を上げていた。

ここ最近、月に二~三件のペースで()()()()()が王都に侵入を試みて都中に警報が鳴り響いているのだ。

それも、王都は広いというのに、毎度、僕のいるところを目指して突進してくる。


ちなみに王都の警報が鳴る頻度は、勇者召喚が行われるまでは数年に一度あるかどうかだったそう。

これには同郷の仲間たちも閉口である。

なんなら慈悲深いと評判の国王陛下も顔を渋くしている。


……これが、僕の”呪いの噂”だ。

ありえない頻度での魔獣の襲撃。

最初は郊外での戦闘訓練中に魔獣の群れが入り込む程度だった。

それが段々と大型の群れになり、時には通り名持ち(ネームド)になり、今では人里に滅多に出てこない大型魔獣まで現れるようになった。

素材屋は喜んでいるが戦う方はたまったもんじゃない。


もしかしたら”魔獣使い”の祝福の力なのではと前線に置いて行かれたりしたが、普通に攻撃された。

つまりこれは、「ただただ魔獣を無差別に引き寄せている」ということらしい。

そりゃ呪いなんて言われますわな。


「これ以上の被害は看過できん!今すぐその呪いをどうにかせよ。次に何事か起こるまでにな!」

「そんな無茶な…!」


何が起きているのかよくわからない、自分が何かをしている自覚もないのにそれをどうにかしろと言われてもどうしようもないではないか。

そんな無理難題を出されて、ひと月あるかないかという時間で何かできるわけが…


カン!カン!カン!カン!


「敵襲だー!!新手が出たぞぉー!」

「何ぃ!?一日で二件だぁ!?」


「……………」

「……次、起こったようだな」


無理ゲーすぎる。

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