命の配給
Rは「命の配給」制度に頼らざるを得なくなっていた。
近未来、人類は「少産多死社会」に突入し、寿命はAIによって管理されるようになった。
全員が公平に寿命を分配されるが、追加の寿命が必要な場合は、他人から譲り受けるしかない。
生命管理庁の窓口で、Rは懇願するように言った。
「僕にはまだやり残したことがあるんです。どうしても寿命を延ばさなければ。」
職員は冷静に答える。
「申請を受理しました。寿命は、ランダムに選ばれた提供者から分配されます。」
翌日、Rのスマホに通知が届いた。
「追加寿命10年が承認されました。現在の寿命:10年」
だが同時に、寿命提供者の情報も記されていた。
「提供者:L、50歳、職業:教師」
Rは誰かの命を奪って延命したという事実に、喜びきれない自分を感じた。
一方、Lはその日、突然届いた通知を見ていた。
「あなたの寿命の一部が分配されました。新しい寿命:10年」
最初は何のことかわからず、Lは生命管理庁に問い合わせた。
「これはどういうことですか? 私の寿命が半分になったなんて……」
窓口の職員は淡々と説明した。
「命の配給制度に基づき、必要な方へ公平に分配されました。」
Lは椅子に崩れ落ちた。
「公平だって? 誰が俺の命を奪ったんだ?」
職員は答えない。提供者にとって、受益者が誰かを知る権利はないとされていたからだ。
だがLの中には、怒りと無力感が渦巻いていた。
「俺は、これから子どもたちに教え続けるはずだった。生徒たちの成長を見届けるのが、俺の夢だったのに……」
家に戻ったLは、妻や子どもたちにこの話を伝えた。
「僕の寿命があと10年しかない。でも、その時間を君たちのために使いたい。」
家族は涙を浮かべながらも、Lの決意を受け入れた。
RはLについて何か知りたくなり、ネットで名前を検索した。
出てきたのは、地方の学校で教鞭をとる男性の写真と、生徒たちから慕われる姿だった。
「こんな立派な人の命を……俺が奪ったのか?」
Rの胸は罪悪感でいっぱいになった。
「本当にこれで良かったのか?」
その夜、生命管理庁からLに再び通知が届いた。
「追加提供者として再選定されました。新しい寿命:5年」
Lは拳を握りしめた。
「俺にはもう、何も残されていないのか……?」
だが、Lの心に浮かんだのは、生徒たちの笑顔だった。
数年後、Lは自分の「最期の日」を迎えた。
学校の教室で、最後の授業を行い、子どもたち一人一人に別れの言葉を告げた。
「みんな、これからも強く生きていくんだよ。先生がいなくなっても、大丈夫だから。」
その後、Lは家族と穏やかな時間を過ごし、夜、ベッドに横たわった。
妻と子どもたちに見守られながら、Lは静かに目を閉じた。
Lの死の翌日、Rは生命管理庁に向かい、職員に強く訴えた。
「僕の追加寿命、返すことはできないのか?」
職員は冷静に答えた。
「一度分配された寿命は戻せません。」
その言葉に愕然とするR。スマホの画面には、次回の更新時期が表示されていた。
「次回申請まで残り:2年」
その時、Rの心には一つの決意が芽生えていた。
「次は誰かの命を奪うようなことはしない。その時が来たら、自分の寿命を譲る側になる。」
だが、それはLの時間を取り戻すには遅すぎる決意だった。
AIの冷たいアルゴリズムは、感情を無視してただ計算を続けていた。




