墓場の秘密
Dは自らの葬式に参加していた。
といっても、本物のDではない。Dの生前の記録や声、仕草をAIが解析し、3Dホログラムで再現したものだ。
この最新の葬儀サービス「リビング・メモリー」は、故人が参列者一人一人に最後の挨拶をするという画期的なものだった。
会場の中央に浮かぶホログラムのDが微笑みながら話し始める。
「皆さん、今日は僕のために集まってくれてありがとう。本当に感謝しているよ。」
会場からすすり泣きが聞こえた。
「こんなに多くの人に見送られるなんて、僕は幸せ者だ。」
Dのホログラムは、家族や友人の名前を呼びながら、生前の思い出を語っていく。
参列者たちは涙を流しながらDとの別れを惜しんでいた。
挨拶を終えると、Dはしばらく沈黙し、会場を見渡した。
その表情はどこか穏やかで、同時に何かを決意したようにも見えた。
「さて、ここまでで終わりだと思った人もいるかもしれない。でも、実はまだ話しておきたいことがあるんだ。」
会場がざわついた。
「僕には、生きている間に誰にも話せなかった秘密がある。」
参列者たちは一瞬戸惑い、耳を澄ませた。
「ここだけの話だが、死んだからこそ、もう言ってしまえると思う。」
Dのホログラムはふっと微笑み、話し始めた。
「まず一つ目――」
Dは会場の片隅に座る男性Sを見つめた。
「S、君が僕の引き出しからこっそり持ち出したお金のこと、実はずっと気づいていたよ。」
会場が静まり返った。Sは青ざめ、何かを言い返そうとしたが言葉が出ない。
Dは続けた。
「二つ目――J、あの時僕の車を傷つけたの、君だったよね?隠そうとしていたけど、ちゃんと見てたんだ。」
参列者たちがざわめき始める。Jは顔を真っ赤にし、周りの視線を避けた。
「まだあるよ。」
Dのホログラムは微笑みを浮かべたまま言った。
「L、僕が死んだ本当の理由、君も関係しているんだ。」
Lは動揺して立ち上がり、震える声で言い返した。
「そんなの嘘だ!何の証拠もない!」
Dのホログラムは何かを言いかけたが、突然映像が途切れ、音声が止まった。
会場が暗転し、静寂が訪れる。
数秒後、葬儀会社の担当者が慌てた様子で壇上に現れた。
「申し訳ありません、システムエラーが発生しました。ただいま復旧作業を――」
だが、参列者たちはその言葉を聞いていなかった。
既に場内は混乱の渦に包まれていた。指を指し合い、互いに疑惑の目を向ける人々。
その中で、ホログラムのDの最後の言葉が響いた。
「秘密は墓場まで――とはいかなかったね。」
スクリーンに映るDの笑顔が静かに消えていった。




