楽園の守護者
H は深い森の中を歩いていた。周囲には豊かな緑が広がり、清らかな小川のせせらぎが聞こえる。ここは地球最後の楽園と呼ばれる場所だった。
しかし、H の表情は曇っていた。彼の背中には銃が背負われている。平和を愛する環境活動家だった H にとって、これほど違和感のあるものはなかった。
「準備はいいか?」仲間の I が声をかけた。
H は無言で頷いた。彼らの楽園が、外の世界から狙われていた。
数年前、世界の大半が環境破壊と戦争で荒廃したとき、H たち少数の環境活動家は、最後に残された手つかずの自然の中に隠れ住んだ。そこで彼らは、完全な平和と調和の中で暮らしてきた。
しかし、その存在が外の世界に知れ渡ってしまった。残された資源を求め、荒廃した世界の人々が、楽園に押し寄せようとしていた。
「本当にこれしか方法はないのか?」H は自問した。
I は静かに答えた。「他に選択肢はない。守るべきものがあるんだ」
彼らは非暴力と平和を信じ、実践してきた。しかし今、その信念と現実が激しくぶつかり合っていた。
森の入り口に、侵入者たちの姿が見えた。彼らの目には、飢えと絶望の色が宿っていた。
H は銃を構えた。しかし、引き金を引くことはできない。
「待て!」H は叫んだ。
彼は銃を下ろし、両手を広げて侵入者たちに近づいた。
「我々に敵意はない。ただ、この場所を守りたいだけだ」
侵入者たちは困惑した様子で立ち止まった。
H は続けた。「この楽園は、君たちのものでもある。共に守り、共に生きていこう」
緊張が漂う空気の中、一人の侵入者が武器を下ろした。続いて、また一人。
やがて、双方の武器が地面に置かれた。
H は微笑んだ。「さあ、新しい始まりだ。この楽園を、共に守っていこう」
彼らは共に森の奥へと歩き始めた。武器は森の入り口に、忘れ去られたように残されていた。
その日から、楽園は新たな意味を持った。それは単なる逃避の場所ではなく、人類再生の希望の地となったのだ。
H はあらためて周囲を見渡した。鳥のさえずり、木々のざわめき、清浄な空気。
そして、かつての敵同士が協力して畑を耕す姿。
真の楽園の守護者とは、武器を持つ者ではない。
対話し、分かち合い、共に生きる勇気を持つ者なのだと、H は悟ったのだった。




