一日の栄光
「就任おめでとうございます、Z大統領」
秘書官Yの声に、Zは目を覚ました。時計を見ると、午前0時ちょうど。彼の大統領としての一日が始まったのだ。
「ありがとう、Y。今日の予定は?」
Yは慌ただしく答えた。
「はい。午前1時から閣僚会議、2時から経済政策の発表、3時からは外交問題への対応...」
Zは額に手を当てた。たった24時間の任期で、これほどのタスクをこなさなければならないのか。
「分かった。では、さっそく始めよう」
閣僚会議は混沌を極めた。各大臣は、自分の主張を押し通そうと必死だ。
「教育予算を倍増すべきです!」
「いや、防衛費の増額が先決です!」
「経済対策こそ急務です!」
Zは頭を抱えた。どの主張にも一理あるが、全てを実現するのは不可能だ。
「皆さん、落ち着いてください。優先順位を...」
しかし、彼の言葉は誰にも届かない。結局、会議は何も決まらないまま終わった。
午前2時、経済政策の発表。Zは疲れた表情で記者会見に臨んだ。
「本日付で、全国民に10万円の給付金を支給します」
記者たちがざわめく。
「財源は?」
「インフレは加速しませんか?」
「バラマキ政策ではないですか?」
質問が飛び交う。しかし、Zには詳細を詰める時間がなかった。
「詳細は後ほど発表します」
そう言って、会見を切り上げた。
午前3時、外交問題への対応。隣国との領土問題が再燃していた。
「大統領、隣国が軍艦を接近させています。どう対応しますか?」
Zは焦った。外交はもっとも慎重を要する分野だ。しかし、彼には熟考する時間がない。
「こちらも軍艦を出す。牽制だ」
Yは心配そうな表情を浮かべた。
「それは、エスカレートの恐れが...」
「他に方法があるか?」
Zの声は焦りに満ちていた。
そして、一日はあっという間に過ぎていった。
経済政策は混乱を招き、株価は乱高下。給付金の財源が不明確なため、国債の格付けが下がった。
隣国との関係は一気に冷え込み、両国の軍艦がにらみ合う異常事態に。
教育政策、環境政策、社会保障...。どれも中途半端な対応に終わり、国民の不満は高まるばかり。
午後11時50分。Zは疲れ果てた様子で執務室に座っていた。
「Y、私は何をしてしまったんだ...」
Yは静かに答えた。
「大統領、お一人を責めることはできません。このシステム自体に問題があるのです」
「このシステム?」
「はい。24時間という短すぎる任期。次々と変わる大統領。一貫性のない政策...」
Zは深くため息をついた。
「君の言う通りだ。しかし、これは国民が選んだシステムだ。毎日、新しい大統領を...」
「そうですね。でも、そろそろ変える時期なのかもしれません」
時計は午後11時59分を指していた。
「Y、最後にお願いがある」
「はい、なんでしょうか」
「次の大統領に、メッセージを残したい」
Zは急いで手紙を書き始めた。
『親愛なる次期大統領へ
24時間では何も変えられません。しかし、変革の種を蒔くことはできます。
今こそ、このシステムを見直す時です。長期的な視野を持ち、真に国民のための政治を行う。
そのために、任期の延長を提案してください。
一日では何もできません。しかし、その一日の積み重ねが、未来を作るのです。
勇気を持って、変革の第一歩を踏み出してください。
心からの激励を込めて
前大統領 Z』
午前0時、鐘の音が鳴り響いた。
Zの任期が終わると同時に、新たな大統領が就任する。
その瞬間、Zの書いた手紙が新大統領の机の上に置かれた。
新大統領Aは、秘書官Yに出迎えられながら、執務室に入った。
「就任おめでとうございます、A大統領」
Aは机の上の手紙に気づいた。
「これは?」
「前大統領からのメッセージです」
Aは手紙を読み、深く考え込んだ。
「Y、今日の予定を教えてくれ」
「はい。午前1時から閣僚会議、2時から経済政策の発表、3時からは外交問題への対応...」
Aは手紙を握りしめ、決意に満ちた表情で言った。
「予定を変更してくれ。最優先事項は、この24時間大統領制の見直しだ」
Yは驚いた表情を浮かべたが、すぐに頷いた。
「はい、承知しました」
そして、新たな一日が始まった。変革の種が蒔かれ、それが芽を出すかどうかは、まだ誰にも分からない。
しかし、確かなのは、たった24時間でも、未来を変える可能性があるということ。
そして、その一日一日の積み重ねが、やがて大きな変化をもたらすかもしれないという希望だった。




