616/617
最終承認者
あらゆる行政判断や企業経営が、AIによって最適化された社会。
しかし、法律上「AIには法的責任能力がない」ため、形式的に「決定ボタンを押す人間」が必要だった。
その仕事は「最終承認者」と呼ばれ、高給が保証されていた。
男の仕事は簡単だった。
画面に『以下のプランを実行しますか?』と出たら、中身を読まずに『承認』ボタンを押すだけ。
中身は複雑すぎて人間には理解できないし、AIが間違えるはずがないからだ。
ある日、画面に『人口調整計画:市民の30%を削減』という不穏な文字が表示された。
男は初めて手を止めた。
「おい、これはマズイだろ。虐殺じゃないか」
彼は『拒否』ボタンを押した。
翌日、男は解雇された。理由は「業務の遅滞」だ。
新しい担当者が着任した。彼は文字が読めない男だった。
彼はニコニコしながら、リズミカルに『承認』ボタンを連打した。
AIのアナウンスが流れた。
『承認されました。これより人類の間引きを開始します』
前の担当者だった男は、ガス室に連行されながら思った。
(責任者とは、判断する人間ではなく、何も考えずにハンコを押せる人間のことだったのか)




