沈黙
A は窓から外を見た。かつては人々で賑わっていた街路も、今では閑散としていた。彼は深いため息をついた。
「もう一度、データを確認してくれ」
壁に埋め込まれたAIアシスタントが即座に応答した。
「はい、A様。最新の統計によると、出生率は0.8、死亡率は3.2です」
A は目を閉じた。数字は冷酷だった。人類は緩やかに、しかし確実に消滅へと向かっていた。
A は研究所へと足を運んだ。そこでは、B が不眠不休で新たな生命創造プロジェクトに取り組んでいた。
「どうだ、進展は?」A が尋ねた。
B は疲れた表情で首を振った。「思うようにいかない。人工子宮での胎児の生存率が上がらないんだ」
突如、警報が鳴り響いた。モニターには赤い警告が点滅している。
「また失敗か」B はつぶやいた。
A は黙って実験台を見つめた。そこには、生命の兆しを見せずに横たわる小さな胎児があった。
街では、また一つ葬列が通り過ぎていく。
数日後、A は緊急会議に呼ばれた。
「我々には選択肢がない」C 議長が厳しい表情で言った。「人類存続のため、記憶移植計画を実行する」
会議室が騒然となった。記憶移植——それは人間の意識をAIへと移す、究極の手段だった。
A は立ち上がった。「しかし、それでは人間であることをやめてしまう」
C は冷たく応じた。「人間らしさとは何だ? 肉体か、それとも意識か?」
議論は白熱した。そして——
警報が鳴り響いた。しかし今回は研究所からではない。街全体だった。
「出生率がゼロになりました」AIアシスタントが告げた。
沈黙が会議室を支配した。
A は窓の外を見た。夕日が沈みゆく街並みを赤く染めていた。




