現代の姥捨て山
A氏は、息子Bと共に静かに車を走らせていた。車内には重苦しい空気が漂っていた。
「父さん、本当にこれでいいのか?」Bが不安げに尋ねた。
Aは無言で頷いた。彼らの目的地は、近未来の日本社会が抱える深刻な問題への"解決策"だった。
西暦2050年、日本は超高齢化社会のピークを迎えていた。医療技術の発達により平均寿命は120歳を超え、65歳以上の高齢者が人口の40%を占めるようになっていた。
政府は高齢者の介護と福祉に膨大な予算を費やし、若い世代の負担は限界を超えていた。そんな中、ある企業が画期的なシステムを開発した。
それが「デジタル姥捨て山」だった。
高度なAI技術を駆使し、高齢者の意識をデジタル空間にアップロードするこのシステムは、肉体の限界を超えた"永遠の生"を約束した。しかし、その裏には残酷な真実が隠されていた。
Aとその息子Bは、そんな「デジタル姥捨て山」に向かっていた。車中、Aは自分の人生を振り返っていた。
彼は65歳。まだまだ元気で、仕事も続けられると自負していた。しかし、社会は彼を「老人」と呼び、退職を強いた。年金制度は崩壊寸前。医療費は高騰し続け、家族に負担をかけたくないという思いが、彼をこの決断に追い込んだ。
「お前たちの未来のためだ」Aはそう言い聞かせていた。しかし本当は、この社会システムへの怒りと諦めが彼の心を占めていた。
目的地に到着すると、白衣を着たCが二人を出迎えた。
「ようこそ、デジタルパラダイスへ」Cは笑顔で言った。その笑顔に、どこか不気味さを感じたAだった。
手続きを済ませ、Aは最後の別れの時を迎えた。Bは涙を堪えながら父を抱きしめた。
「父さん、ありがとう。幸せになってくれ」
Aは無言で頷き、白い部屋へと足を踏み入れた。そこには、複雑な装置が置かれていた。
Cの指示に従い、Aは装置に横たわった。目を閉じる直前、彼は不思議な光景を目にした。
部屋の隅に、何かが積み上げられていた。よく見ると、それは古びた人型ロボットだった。その数は、おそらく数百。全て同じデザインで、ただ型番だけが異なっていた。
そして、Aは恐ろしい真実に気づいた。
デジタル空間など存在しなかったのだ。高齢者の意識は、単にこれらのロボットに転送されるだけだった。そして、使い古されたロボットは、こうして廃棄される。
現代版の「姥捨て山」。それが、この施設の正体だった。
しかし、もう後戻りはできない。Aの意識が薄れていく中、最後の思考が脳裏をよぎった。
「これが、私たちの選んだ未来か...」
そして、新たな型番を持つロボットが、部屋から歩み出た。
(了)




