虚空の果実
A氏は、宇宙開発局の一等研究員だった。彼の仕事は、新たに発見された惑星X9の大気組成を分析することだった。
ある日、A氏は驚くべき発見をした。X9の大気には、地球上のどの物質とも似ていない未知の元素が含まれていたのだ。この元素は、光を吸収し、エネルギーに変換する特殊な性質を持っていた。
A氏はこの発見に興奮し、すぐに上司のB博士に報告した。B博士も目を輝かせ、「これは人類の歴史を変える大発見だ!」と叫んだ。
しかし、喜びもつかの間。翌日、A氏の研究室に謎の男C氏が現れた。
「君の発見は素晴らしい。だが、この情報を公開してはならない」
C氏は、政府の極秘機関の代表だと名乗った。彼らは、この新元素を兵器に利用しようとしていたのだ。
A氏は苦悩した。科学者としての良心と、国家への忠誠の間で引き裂かれた。
悩んだ末、A氏は真実を公表することを決意。しかし、その直後、彼の研究データは何者かによって消去されてしまった。
絶望的な状況の中、A氏は密かにX9への探査機打ち上げを計画。D子という若い技術者の協力を得て、極秘裏に準備を進めた。
打ち上げ当日、彼らは政府の監視の目をくぐり抜け、探査機を発射することに成功。しかし、軌道に乗った直後、探査機との通信が途絶えてしまった。
A氏とD子は落胆したが、諦めなかった。彼らは通信回復のため、不眠不休で作業を続けた。
そして、打ち上げから7日後、奇跡が起こった。探査機からの信号が届いたのだ。
しかし、その内容は彼らの想像を遥かに超えていた。
探査機が送ってきたデータによると、X9の大気中の未知の元素は、実は微小な知的生命体だったのだ。彼らは光を吸収し、思考エネルギーに変換する能力を持っていた。
更に驚くべきことに、この生命体たちは、地球の科学者たちとコンタクトを取ろうとしていたのだ。
A氏とD子は、この情報をどうすべきか悩んだ。公表すれば、彼らは危険な立場に置かれる。かといって、隠蔽すれば、人類は素晴らしい出会いの機会を失ってしまう。
二人が決断に迷っていたその時、突然、研究所全体が強烈な光に包まれた。
気がつくと、A氏とD子の前には、光で形作られた人型の生命体E氏が立っていた。
「我々は、あなた方の決断を見守っていました」
E氏は語った。彼らは、知的生命体がどのような選択をするのか、実験していたのだという。
「あなた方は、真実と平和を選びました。我々は、あなた方と交流する準備ができています」
A氏とD子は、喜びと驚きで言葉を失った。
その瞬間、研究所のドアが開き、B博士とC氏が慌てて飛び込んできた。彼らの表情には、恐怖と後悔の色が浮かんでいた。
「我々は間違っていた」とC氏は呟いた。「真実を隠蔽しようとして、人類の未来を危うくするところだった」
B博士も深く頭を下げた。「A君、君の勇気が我々を救ったんだ」
E氏は、静かに微笑んだ。
「あなた方の種族には、まだまだ成長の余地がある。我々は、その過程をサポートしたい」
そして、E氏は光の粒子となって消えていった。研究所の中は、再び静寂に包まれた。
A氏、B博士、C氏、D子の4人は、互いの顔を見合わせた。彼らの表情には、恐れと興奮、そして希望が入り混じっていた。
人類の新たな章が、今まさに幕を開けようとしていた。
しかし、誰も気づいていなかった。研究所の片隅で、一つの植物が静かに芽吹いていたことを。
それは、X9の大気から生まれた新しい生命体だった。光を吸収し、驚異的なスピードで成長していく。
人類と宇宙生命体の交流が始まろうとする中、地球上で静かに、しかし確実に、未知の進化が始まっていたのだ。
その植物は、やがて人類の運命を大きく変えることになる。
だが、それはまた別の物語。




