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百物語  作者: 冷やし中華はじめました


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進化の誤謬

P博士は、生物の進化を究極まで加速させる薬品の開発に成功した。彼の目的は、人類をより優れた種へと進化させることだった。しかし、その夢は思わぬ方向へと歪んでいく。


実験室で、P博士は小さなペトリ皿を覗き込んでいた。そこには、彼が開発した進化促進剤を与えられたアメーバが泳いでいる。わずか数時間で、アメーバは複雑な形態へと変化していった。


「素晴らしい!」P博士は興奮を隠せなかった。「これで人類の進化を何百万年も早められる」


しかし、彼の喜びもつかの間、実験室のドアが勢いよく開いた。


Q警部が数人の警官を伴って入ってきた。


「P博士、あなたを逮捕する」


P博士は驚愕した。「何の罪で?」


Q警部は冷ややかに答えた。「種の純潔を汚す罪だ。我々は人類の自然な進化を守らねばならない」


P博士は必死に説明しようとした。「違う!これは人類を救うための研究なんだ!」


しかし、Q警部は聞く耳を持たなかった。P博士は連行されていった。


その夜、警察署の留置所でP博士は考え込んでいた。突然、セルの壁が溶け始めた。驚いて後ずさると、壁の向こうから奇妙な形の生き物が現れた。


それはR。P博士の実験室から逃げ出した進化したアメーバだった。


Rは不思議な声で話し始めた。「P博士、あなたの薬のおかげで私たちは急速に進化しました。今や、物質を自由に操ることができます」


P博士は驚きと喜びで言葉を失った。彼の実験は成功したのだ。しかし、それと同時に恐ろしい予感が襲った。


Rは続けた。「人類よりも優れた種となった私たちが、この惑星を支配するのが自然の摂理です。あなたの協力が必要です」


P博士は激しく頭を振った。「違う!それは進化の目的ではない!」


しかし、Rは聞く耳を持たなかった。


その時、警報が鳴り響いた。Q警部が駆けつけてきた。


状況を把握したQ警部は、P博士に向かって叫んだ。「これが、あなたのしでかしたことか!」


P博士は必死に説明しようとした。「違う!これは誤解だ!」


しかし、もはや誰も彼の言葉に耳を貸さなかった。


混乱の中、Rは次々と警官たちを無力化していった。その姿は、まるで SF 映画から飛び出してきたモンスターのようだった。


P博士はこの光景を茫然と見つめていた。彼の夢見た進化は、こんなものではなかった。


そのとき、廊下の奥から足音が聞こえてきた。


現れたのは、S長官だった。彼女は落ち着いた様子で状況を見渡すと、にっこりと笑った。


「お見事です、P博士」


全員が困惑の表情を浮かべる中、S長官は説明を始めた。


「これは全て、進化に関する人類の理解を試すテストでした。Q警部もRも、私たちの仲間です」


部屋中が静まり返る。


S長官は続けた。「人類は、進化を単なる『強さ』や『知性』の向上と誤解しています。しかし、真の進化とは、環境に適応し、他の生命体と共存する能力を高めることなのです」


P博士は、自分の研究の真の意味を理解し始めていた。


S長官は彼に近づいた。「あなたの研究は、この誤解を解く鍵となるでしょう。協力していただけますか?」


P博士は深く考え込んだ。彼の目指す進化とは何だったのか。強さか、知性か、それとも…。


数年後、P博士の研究所。


彼は、新しい実験に取り組んでいた。それは、生物の共生能力を高める薬品の開発だった。


部屋には、様々な生き物たちが平和に共存している。かつての敵対者だったQ警部も、研究を手伝っていた。


そこへ、T記者が取材にやってきた。


「P博士、あなたの新しい研究について聞かせてください」


P博士は穏やかな笑みを浮かべながら答えた。


「進化とは、強くなることではありません。他者と理解し合い、共に生きる力を育むこと。それこそが、真の進化なのです」


T記者は熱心にメモを取っている。


そのとき、研究所の窓から一羽の鳥が飛び込んできた。普通なら大騒ぎになるところだが、室内の生き物たちは平然としている。


鳥は、まるでここが自分の居場所であるかのように振る舞い、P博士の肩に止まった。


P博士は鳥を優しく撫でながら、T記者に語りかけた。


「見てください。これこそが、私たちが目指す世界です。種の壁を越えて、互いを理解し、共存する。それが、真の進化した姿なのです」


T記者は感動のあまり、言葉を失っていた。


しかし、その瞬間、突如として警報が鳴り響いた。


研究所のスクリーンに、衝撃的な映像が映し出される。地球に向かって、巨大な宇宙船が接近していたのだ。


P博士は一瞬、驚きの表情を見せたが、すぐに落ち着きを取り戻した。


「私たちの次なる挑戦が、早くも始まったようですね」


彼は、肩に止まった鳥に語りかけるように言った。


「さあ、地球外生命体との共存について研究を始めましょう。これこそ、私たちの進化の真価が問われる時です」


T記者は唖然としながらも、この歴史的瞬間をカメラに収めていた。


研究所の生き物たちは、まるで事態を理解したかのように、それぞれの持ち場に散っていく。


P博士は窓の外を見つめた。そこには、不安と希望が入り混じった新たな世界が広がっていた。


彼は静かにつぶやいた。


「進化は終わらない。むしろ、本当の進化はここから始まるのかもしれない」


空には、徐々に大きくなる未知の宇宙船。地上では、様々な生物が協力し合って何かの準備を始めている。


人類の新たな章が、今まさに幕を開けようとしていた。


(終)

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