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百物語  作者: 冷やし中華はじめました


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時間の分岐点

2145年、科学者Mは、ついに「時間の分岐点」を可視化する装置の開発に成功した。この装置は、人生の重要な選択の瞬間を映し出し、選択肢ごとの未来を垣間見ることができるものだった。


Mは興奮気味に助手のNに説明した。「これで、人々は自分の選択の結果を事前に知ることができる。後悔のない人生を送れるはずだ」


Nは眉をひそめた。「でも、それって人生から偶然性や冒険を奪うことにならないでしょうか」


Mは軽く手を振った。「そんなことはない。これは単なるガイドだ。最終的な選択は個人に委ねられる」


政府の承認を得て、「時間の分岐点」装置は一般に公開された。人々は自分の重要な決断の前に、この装置を利用するようになった。


会社員のOは、海外転勤の話を持ちかけられていた。彼は装置の前に立ち、選択肢を入力した。


画面に二つの未来が映し出される。


選択肢A:海外転勤を受け入れる

- キャリアが急上昇

- 新しい文化との出会い

- 家族との時間が減少


選択肢B:現状維持

- 安定した生活

- 家族との時間を確保

- キャリアの停滞


Oは迷った末、海外転勤を選んだ。


大学生のPは、専攻を決める時期だった。彼女も装置を使用した。


選択肢A:芸術の道を進む

- 創造的な人生

- 経済的な不安定さ

- 自己表現の喜び


選択肢B:ビジネスの道を進む

- 安定した収入

- クリエイティビティの制限

- 社会的地位の獲得


Pは、芸術の道を選んだ。


時が経つにつれ、社会は変わっていった。人々の選択は、より計算されたものになり、リスクを避ける傾向が強まった。予測可能性が高まる一方で、社会全体の革新性は低下していった。


10年後、Mは自身の発明の影響を憂いていた。彼の前に、かつての助手Nが現れた。


「やあ、M博士。予想通りの結果になりましたね」


Mはため息をついた。「君の言う通りだった。人々は安全な選択ばかりするようになってしまった」


Nは静かに言った。「でも、それも一つの選択の結果です。私たちにも責任がある」


その時、若い研究者Qが二人に近づいてきた。


「M博士、N博士。新しい装置を開発しました。『時間の盲点』と呼んでいます」


二人は興味を示した。Qは説明を続けた。


「この装置は、『時間の分岐点』とは逆に、選択の結果を完全にランダム化します。つまり、未来を全く予測不可能にするんです」


Mは目を見開いた。「それは危険すぎるのでは?」


Qは首を振った。「いいえ、これこそが人生の本質なんです。不確実性こそが、人生を面白くし、創造性を生み出す源なのです」


Nはじっと考え込んだ。「つまり、選択することと、その結果を受け入れる勇気を持つこと...それが大切だということか」


三人は沈黙した。そして、MがQに尋ねた。


「その装置、使ってみてもいいかな?」


Qはうなずいた。「もちろんです。ただし、結果は誰にも分かりません」


Mは深呼吸をし、装置に向かった。彼は自問した。「これを世に出すべきか、それとも破棄すべきか」


彼が選択ボタンを押そうとしたその時、突然停電が起きた。研究所が真っ暗になる。


数分後、非常電源が起動し、薄暗い光が室内を照らした。


Mは静かに笑った。「どうやら、選択は時間が自ら下してくれたようだ」


NとQも笑みを浮かべた。三人は暗闇の中、未知の未来に向かって歩み出した。


研究所の外では、予期せぬ停電により、街中の「時間の分岐点」装置が一斉にシャットダウンしていた。人々は困惑しつつも、久しぶりに自分の直感だけを頼りに選択を下し始めていた。


そして、誰も気づかないうちに、新たな可能性に満ちた未来が静かに形作られていった。


(了)

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