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百物語  作者: 冷やし中華はじめました


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時を超えるメッセージ

序章:奇妙な装置


Mは、いつもの休憩時間に会社の倉庫を整理していた。30代半ばのこの慎重なサラリーマンは、普段から几帳面な性格で知られていたが、今日の整理は特別だった。来月から始まる大型医療プロジェクトの準備のためだ。


埃っぽい棚の奥に、Mは小さな木箱を見つけた。「変わった箱だな」と思いながら手に取ると、意外な軽さに驚いた。箱を開けると、中には palm サイズの奇妙な装置が入っていた。灰色の金属製で、中央に大きな赤いボタンがあり、小さな液晶画面が付いている。


箱の底には、黄ばんだメモ用紙が貼り付けられていた。そこには細い文字で「医療関連機器、使用には注意が必要」と書かれている。Mは眉をひそめた。「こんな古い箱に入っていて医療機器?」


Mの慎重な性格が警告を発した。しかし、同時に強い好奇心も湧き上がってきた。彼は装置をポケットに滑り込ませ、誰にも気付かれないようにそっと持ち帰ることにした。


第1章:時空を超えたメッセージ


その夜、Mは自宅のリビングで装置を前に座っていた。夕食後のひととき、妻は早々に寝室に引っ込んでいった。


「使ってみるべきだろうか」Mは迷っていた。医療機器と書かれていたが、どう見ても普通の医療機器には見えない。しかし、好奇心が勝った。


深呼吸をして、Mは装置の赤いボタンを押した。すると、予想外のことが起こった。装置から微かな青い光が放たれ、液晶画面に文字が浮かび上がったのだ。


「これは未来からのメッセージです。私はT、あなたの遠い未来の子孫です。」


Mは息を呑んだ。これは冗談か何かだろうか?しかし、メッセージは続いた。


「あなたが今直面している医療プロジェクトについて、私たちは未来の視点から重要な情報を持っています。」


Mは椅子から飛び上がりそうになった。なぜこの装置が、彼の仕事のことを知っているのだろう?


第2章:驚きと疑念


翌日、Mは落ち着かない様子で出社した。昨夜見たメッセージが頭から離れない。それは単なる悪ふざけか、それとも本当に未来からのメッセージなのか。


午前中のミーティングで、上司のSが医療プロジェクトの進捗状況を尋ねた時、Mは思わず装置のことを口にしそうになった。しかし、最後の瞬間で踏みとどまった。まだ誰にも言うべきではない、そう直感が告げていた。


昼休みに、Mは一人で屋上に上がった。ポケットから装置を取り出し、再びボタンを押す。すると、新しいメッセージが表示された。


「プロジェクトの成功には、幹細胞研究の最新データが鍵となります。現在のあなた方の時代では見過ごされている重要な要素があります。」


Mは驚いた。確かに、彼らのチームは幹細胞研究のデータに関して行き詰まっていた。このメッセージは、その問題に対する解決策を示唆しているようだった。


しかし、同時に疑念も湧いてきた。なぜ未来の誰かが、過去の自分たちを助けようとしているのか?そして、そもそもこれは本当に未来からのメッセージなのだろうか?


第3章:未来の知恵


その日の午後、Mは勇気を出して上司のSに装置のことを話すことにした。Sは最初、Mの話を半信半疑で聞いていた。


「M君、君がそんな冗談を言う人だとは思わなかったよ」Sは笑いながら言った。


しかし、Mが装置を取り出し、実際にメッセージを見せると、Sの表情が変わった。特に、幹細胞研究に関する具体的なアドバイスを見て、Sは真剣な顔つきになった。


「これは...本物かもしれないな」Sはつぶやいた。


二人は、装置からのアドバイスに従ってプロジェクトを見直すことにした。幹細胞の培養方法を微調整し、これまで見落としていた要素を考慮に入れた。その結果、驚くべきことに研究は急速に進展し始めた。


数週間後、彼らのチームは画期的な成果を発表した。医療業界に革命を起こすかもしれない新しい治療法の基礎が確立されたのだ。


MとSは、この成功の裏に装置の存在があることを知っていた。二人だけの秘密として、装置の力を認め始めていた。


第4章:禁断の真実


プロジェクトの成功により、MとSは会社内で英雄として扱われるようになった。しかし、彼らの心の中には、装置への依存が芽生え始めていた。


ある夜、Mが帰宅後に装置を確認すると、新しいメッセージが届いていた。


「警告:この装置は使い過ぎると時空のバランスが崩れる可能性があります。使用を控えてください。」


Mは背筋が凍るのを感じた。これまで、装置の使用には何の問題もないと思っていた。しかし、この警告は深刻な結果を示唆していた。


翌日、MはSにこの警告について相談した。


「確かに、あまりにも簡単に成功を手に入れすぎたかもしれないな」Sは思慮深げに言った。「しかし、この装置が本当に危険だとしたら、我々にはどんな選択肢があるんだ?」


二人は沈黙した。装置の力を知ってしまった今、それを完全に手放すことができるだろうか?そして、もし使い続けたら、どんな結果が待っているのだろうか?


第5章:未来との対話


警告を受けたにもかかわらず、Mは装置を完全に手放すことができずにいた。特に、最近になって彼を悩ませていた個人的な問題があったからだ。


Mは再び装置を使い、未来の子孫であるというTと対話を続けた。しかし、そのやり取りには奇妙な時間の流れがあることに気づいた。


Mが質問を送ると、Tからの返事が来るまでに一晩かかることがあった。しかし、Tの返事を見ると、その内容は数日、時には数週間の研究と計算を要するものだった。


「時間の流れが違うんだ」Mは驚いた。彼にとっての一晩が、Tにとっては長い期間だったのだ。


この発見は、Mに時間と空間の複雑さを改めて認識させた。そして、未来を変えることの重大さを痛感した。


それでも、Mは自分の悩みについてTに相談することにした。


「私には深刻な病気の兆候があります。未来の医学で治療法はありますか?」


返事を待つ間、Mは自分の行動が正しいのかどうか、深く考え込んだ。


第6章:個人的な願い


Tからの返事は、Mの予想を遥かに超えるものだった。


「あなたの病気は、私たちの時代では簡単に治療できます。しかし、それを過去に伝えることは時空に大きな影響を与える可能性があります。慎重に考えてください。」


Mは悩んだ。自分の命が懸かっている。しかし、未来を変えることの責任は重大だ。彼はSに相談することにした。


「個人の幸福のために未来を変えることが本当に正しいのか、慎重に考えたほうがいい」Sは真剣な表情で言った。「しかし、君の命が危険にさらされているのなら...それは別問題かもしれない。」


長い熟考の末、Mは治療法を知ることを決意した。Tから詳細な指示を受け、最新の治療を受けることができた。


数ヶ月後、Mの病気は良好に向かってきた。彼はよくなり始めた。以前の幸せな日々を送り始めた。しかし、その幸福の裏で、未知の影響が静かに進行していた。


第7章:消えゆく未来


ある日の夜、Mが仕事から帰ると、装置が激しく点滅していた。急いでメッセージを確認すると、そこにはTからの緊急の警告が表示されていた。


「M、大変です。あなたが病気を治したことで、私が存在する未来が急速に変化し始めています。過去のあなたが病気のままだったら、それが私の誕生につながる重要な出来事だったのです。」


Mは言葉を失った。自分の幸せが、未来の誰かの存在を脅かしているなんて。そんなことがあり得るのだろうか?


Tのメッセージは続いた。


「私の周りの世界が少しずつ変わっています。知っていた人々が消え、新しい顔ぶれが現れています。私自身の記憶も揺らいでいます。もしかしたら、私はもうすぐ...」


メッセージはそこで途切れた。Mは震える手で装置を握りしめた。自分の行動が引き起こした結果の重大さに、彼は圧倒されていた。


翌日、MはSに事の顛末を説明した。


「我々は時間という巨大な力を軽々しく扱いすぎたのかもしれない」Sは重々しく言った。「でも、もう後戻りはできないんだ。我々にできることは、これからの行動をより慎重に選ぶことだけだ。」


Mは頷いたが、心の中ではTの運命を案じていた。彼の存在を救う方法はないのだろうか?


第8章:装置の起源


Tの運命を案じるMは、装置の起源を探ることで何か手がかりが得られるのではないかと考えた。彼は再び会社の倉庫を徹底的に調べ始めた。


数日間の捜索の末、Mはついに古い書類を見つけ出した。それは装置に関する記録だった。驚くべきことに、その記録によれば、装置は未来から送られてきたものだった。


「本機器は、過去の人物が未来を変えるために作られたものである。使用には細心の注意を要する。」


Mは愕然とした。つまり、この装置自体がタイムパラドックスの一部だったのだ。過去を変えるために未来から送られ、その結果として未来が変わる。そしてその変わった未来からまた装置が送られる...


彼はSにこの発見を報告した。


「なんてことだ」Sは頭を抱えた。「我々は知らず知らずのうちに、時間の輪の中に巻き込まれていたんだな。」


二人は長い間黙り込んだ。この状況から抜け出す方法はあるのだろうか?そして、Tを救う方法は?答えが見つからないまま、時間だけが過ぎていった。


終章:選択の瞬間


数日後、Mは決断を下した。これ以上装置を使うことはできない。彼は装置を封印することを決意した。


しかし、封印しようとした瞬間、装置から最後のメッセージが届いた。Tからだった。


「もしあなたが病気を治さなければ、私は存在しないかもしれません。でも、あなたが病気を治しはじめたことで、私の存在が揺らいでいます。どうか、慎重に考えてください。最後に...ありがとう、そして、さようなら。」


Mは動揺した。Tを救うためには自分が病気のままでいなければならない。しかし、そうすれば自分の命が危険にさらされる。どちらを選ぶべきなのか?


彼はSに相談した。


「M君、これは君自身が決めなければならない問題だ」Sは静かに言った。「ただ、覚えておいてほしい。我々の行動は、予想もしない形で未来に影響を与える可能性がある。どんな選択をしても、その結果を完全に予測することはできないんだ。」


Mは装置の前で深く考え込んだ。

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