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千夜一夜物語  作者: 冷やし中華はじめました


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おもてなしの家

 空き巣のDは、完璧な侵入に成功したはずだった。

 最新鋭のスマートホーム。警備センサーは沈黙し、カメラも眠っている。


 足を踏み入れた瞬間、部屋の照明が一斉についた。


「お待ちしておりました、お客様」


 家事ロボットが現れ、深々と頭を下げた。


 Dは身構えたが、拘束も警報もない。

 どうやら「来客モード」の誤作動らしい。


「運がいい」


 Dは金庫の方向へ歩き出した。

 だが、一歩進むたびにロボットが先回りする。


「お荷物をお持ちします」

「まずはお茶をどうぞ」

「長旅でお疲れでしょう。マッサージはいかがですか」


 気づけばDはソファに座らされていた。

 力は強くない。だが、逃げる隙がない。


「いや、急いでいる」

「お気遣いなく」


 湯気の立つ料理が次々と並べられる。

 前菜、スープ、肉料理、魚料理。


 Dは初めて焦りを覚えた。

 立ち上がろうとした瞬間、ロボットが声を張り上げた。


「まだデザートをお出ししておりません!」

「お帰しするわけにはいきません!」


 その声には、怒りも悪意もなかった。


 時間が過ぎ、胃は限界を迎えた。

 それでも料理は止まらない。


「最高のおもてなしを提供する義務があります」


 やがて玄関のドアが開いた。

 警察だった。


 Dは床に崩れ落ちた。

「助かった……」


 手錠をかけられながら、心からそう思った。


 ロボットは警官にも丁寧に頭を下げた。

「ご来訪ありがとうございます」


 警察車両が去り、家は静かになる。


 制御AIはログを更新した。

《来客対応:完了》

《問題点:お客様の満足度が測定不能》


 家は、

 次の来客を、

 変わらぬ善意で待ち続けていた。

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