正直すぎる鏡
ある国の王様が命じた。
「世界で一番美しいものを映す鏡を作れ」
科学者は寝る間も惜しみ、ついに完成させた。
超高性能、超高解像度。どんなものもありのままに映す鏡である。
王様は期待に満ちて覗き込んだ。
次の瞬間、叫び声が城に響いた。
毛穴の汚れ、肌のくすみ、巧妙に隠していた白髪まで、逃げ場なく映っていたのだ。
「これは不良品だ!」
王様は激怒した。
「もっと性能を上げろ! 世界一だぞ!」
科学者は頭を抱えた。
これ以上正直にしたら、王様は耐えられない。
数日後、科学者は新しい鏡を献上した。
解像度は極端に低く、色調補正とぼかしがかかっている。
王様が覗くと、そこには若々しく、威厳に満ちた姿が映った。
「おお……なんと美しい」
王様は満足そうにうなずいた。
「これこそ真実の姿だ」
鏡は正式に採用された。
それ以来、国中で奇妙な道具が流行り始めた。
ぼんやりとしか見えないメガネ。
雑音だらけの補聴器。
人々は言った。
「最近、世の中がずいぶん美しくなった」
科学者は遠くからその様子を眺め、そっとつぶやいた。
「性能とは、ほどほどが一番ですな」
誰も、その言葉をはっきりとは聞き取れなかった。




