五輪の恩恵
序
Bは市役所の職員で、来年のオリンピック誘致部門に配属された。
地元は会場の一部になる予定で、商店街もホテルも「五輪景気」に沸いていた。
役所では毎日のように、関連事業の説明会が開かれる。
「この道路を拡張し、駅前に大型ビジョンを設置します。海外からの観光客を迎える準備です」
課長Aはそう言い、誇らしげに図面を広げた。
Bは心の中で計算した。
予算の規模は前年度の5倍。業者も既に決まっている。
——随分と話が早い。
破
工事は急ピッチで進み、街は華やかな雰囲気になった。
だが、地元の小さな商店は次々と閉店していった。
理由は簡単——オリンピック関連の再開発地区に指定され、立ち退きを迫られたからだ。
ある夜、古くからの友人Cが酒の席で言った。
「再開発って言っても、結局は特定のゼネコンと広告代理店が全部握ってるんだよ。立ち退き補償金も、役所と業者の間で数字が出来上がってる」
Bは半信半疑だったが、配布された契約書の控えに、見慣れない印鑑が押されているのを見つけた。
それは、オリンピック組織委員会の印ではなく、特定企業連合の印だった。
急
オリンピックは盛大に開幕した。
街には観光客が溢れ、大型ビジョンの前で人々が歓声を上げた。
テレビは「地域が一丸となって成功を勝ち取った」と連日報じた。
しかし閉会式の翌週、工事関連の看板は次々と外され、スポンサー企業のロゴだけが残った。
Bは課長Aに尋ねた。
「これからは地元の人のための施設にするんですよね」
Aは笑って言った。
「いや、契約期間が終わるまではスポンサーの管理だ。地元利用はその後だな」
Bは駅前の大型ビジョンを見上げた。
そこには閉会式の映像ではなく、新しい海外リゾート開発のCMが流れていた。




