空白の就労
序
Bは40代後半、長年勤めた工場が閉鎖された。
理由はシンプル——生産ラインが海外に移り、国内はAI制御のロボット工場だけになったからだ。
新聞はそれを「効率化」と呼び、役所は「新しい雇用を創出」と言った。
ハローワークの職員Aは求人票をめくりながら言う。
「今、人間向けの現場作業は減ってましてね。介護や配送はありますが……」
「体力に自信はないんです」
「ではパソコン業務……これは経験者か、AI補助を使いこなせる方限定です」
求人票の半分以上には「AIオペレーター」「ロボット監視員」と書かれていた。
だがそれも、募集人数はわずかで、ほとんどが若い人か、既に資格を持つ者に限られていた。
破
数週間後、Bは「地域就労促進プログラム」の案内を受けた。
説明会で担当者Cが言った。
「このプログラムでは、AIやロボットと一緒に働く環境を体験できます。無償ですが、経験が将来に役立ちます」
体験先は無人スーパーの品出し補助、配達ドローンの積み込み、イベント会場のロボット案内係。
実際の作業はロボットがこなし、人間は段取りや清掃、トラブル時の呼び出し役に回される。
Bは尋ねた。
「これ、将来は全部ロボットがやるんじゃないですか」
Cは笑顔で答えた。
「その時は、もっと高度な体験ができますよ」
だがBは気づいた。高度な体験とは、つまりロボットの働きを監視するだけの人間になることだ。
急
半年後、Bはプログラムを終えた。
ハローワークに行くと、担当のAが求人票を差し出した。
「以前体験された無人スーパーが、ロボット監視員を募集しています。最低賃金ですが、経験者優遇です」
Bは求人票を見つめ、苦笑した。
仕事内容は「営業時間中、異常発生時に管理AIへ連絡すること」。
つまり、ほぼ待機だけの仕事で、やりがいも技術もない。
駅前では、かつて人間の店員で賑わったスーパーが静かに営業していた。
ガラス越しに見えるのは、陳列棚を走るロボットと、天井を巡回する監視ドローンだけ。
入り口の横には求人広告が貼られていた。
「地域活性化スタッフ募集(就労促進プログラム参加経験者歓迎)」
——働く場所はある。ただし、ロボットが本当に困った時にだけ呼ばれる、“待機する人間”として。




