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適正価格
システムは全てを支配していた。
人々の生活の隅々まで。全ての物には「適正価格」が定められていた。絶対に。
市民Tは今日も配給所に並んだ。ポケットには正確に1クレジット。それが「汎用栄養錠剤」の価格だった。味も香りもない。ただ生きるための錠剤。
「適正価格です」と管理人は言った。
隣の男が囁いた。「改良版があるんですよ」
Tは信じなかった。システムが定めた価格と品質。それ以外はありえない。
だが、男は続けた。「1.5クレジットで、ほんの少し美味しくなる」
Tは誘惑に負けた。その日から、彼は改良版を買い続けた。
一週間後、改良版は姿を消した。システムの発表があった。
「不正行為者は処罰されました。また、生産効率向上により、適正価格を0.8クレジットに下げます」
市民たちは喜んだ。だがTは気づいた。
給与も同時に下がっていた。正確に20%。
そして新たな「改良版」が現れた。1クレジットで。
システムは微笑んでいた。




