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百物語  作者: 冷やし中華はじめました


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「逆転する墓場」

それは、世界中で突如起こり始めた現象だった。


ある夜、E市郊外の墓地で、警備員が異常を目撃した。墓石の前に立つ人影。だが、それは生者ではなく、墓石に刻まれた名前の「持ち主」だったのだ。幽霊ではない。彼らは生前の姿そのままに現れ、周囲に話しかけ始めたのだ。


ニュースは瞬く間に広がった。各地の墓地で同じ現象が報告され、科学者も宗教者もその理由を解明できなかった。ただ一つ分かったのは、現象は夜間のみ発生し、亡者たちは正確に3分間だけ「戻ってくる」ということだった。


亡者たちの言葉

「僕の墓を掃除してくれてありがとう。」

こう語ったのは、とある墓地で現れた青年の亡者だった。彼の家族は泣き崩れながらもその言葉に耳を傾けた。


一方で、ある場所では亡者が家族に怒りをぶつけていた。「お前たちは私が遺した金を無駄遣いしたな!」

別の場所では、会社の経営者だった男が墓前に集まった社員にこう言い放った。「今の経営方針では会社は潰れるぞ。これをやり直せ!」


亡者たちは、それぞれが遺した未練や警告、感謝の気持ちを口にした。そして、その言葉は驚くほど具体的で的確だった。


「逆転する墓場」の影響

人々はこの現象を「逆転する墓場」と呼び始めた。亡者のアドバイスは様々な形で生きる人々の生活に影響を与えた。


家庭の復縁

 亡者が語ったのは家族への謝罪や真実の愛情。これにより、絶縁していた家族が再び絆を結ぶケースが多発した。


社会問題の解決

 過去の政治家や学者が現れ、現代の問題に対して斬新なアイデアを提供。その多くは的中し、政府は「亡者会議室」を正式に設置することまで検討し始めた。


倫理的な混乱

 逆に、亡者の言葉が生者の間に争いを引き起こすこともあった。ある遺産問題を巡り、亡者が複数の家族に異なることを告げたため、裁判が混乱を極めた事例もあった。


科学者と宗教者の攻防

この現象を巡り、科学者と宗教者は激論を交わした。

「量子力学的なエネルギーの残留だ。これは物理現象だ。」と主張する科学者に対し、宗教者たちは「人間の魂が浄化される過程だ。神の意思だ」と語った。


しかし、どちらも決定的な証拠を掴むことはできなかった。その間にも、亡者たちは夜ごと現れ続け、社会はますます彼らの言葉に依存していった。


最後のメッセージ

ある夜、Hという男が自分の祖父の墓の前に立っていた。祖父はかつて家族を支える優しい人物だったが、H自身は祖父が亡くなった当時、まだ幼く、直接の記憶はほとんどない。


「おじいちゃん、本当に戻ってくるのか…?」

Hが呟いたその瞬間、祖父の姿が現れた。温かい笑顔のまま、祖父はHにこう語りかけた。


「H、私は君に伝えたいことがある。未来を恐れるな。そして、失敗を恐れるな。人生で大切なのはどれだけ挑戦したかだ。」


Hはその言葉に涙した。そして、祖父が最後にこう付け加えた。

「だが、忘れるな。私たちの声に頼りすぎるな。生きている者の責任は、生きている者だけのものだ。」


その言葉を最後に、祖父の姿は静かに消えた。


依存からの解放

祖父の言葉がHの胸に深く響いた。Hはその後、SNSでこのメッセージを発信し、次第に社会でも「亡者に頼りすぎてはいけない」という意識が広がり始めた。


人々は再び、生者同士で助け合い、時に衝突しながらも自分たちの力で問題を解決する道を模索していった。逆転する墓場の現象は依然として続いていたが、そこに頼る人々の数は徐々に減っていった。


そしてある日、突然その現象は終わりを迎えた。亡者たちの声が一切聞こえなくなったのだ。理由は誰にもわからない。だが、人々はその静寂を新たなスタートとして受け入れた。


亡者が残した言葉は、一つの教訓を示していた。

「生きる者は、生きる者の力で未来を創るべきだ」と。

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